◆「園は信用できない」と保護者
この期限は守られなかったものの、園側と保護者会は話し合いを続けてきた。
ところがその内容がまとまりかけた6月19日、交渉が決裂。それ以後、話し合いがなくなったという。
その経緯を保護者らはこう明かす。
「現場は一度も専門家による調査が実施されていません。園側は園舎の吹き付けアスベストの除去工事をするというので、その前に1日でもいいから専門家による現地調査を実施させてほしいと申し入れました。園側は、一度は同意したんですが、突然拒否したんです」
たしかに保護者会と園側で詰めていた要綱案には「事実の解明」について1項目設けられており、保護者の求めに応じて専門家による立ち入りやヒアリングを実施すると記載されている。
「園側はアスベストを飛散させて、全員を被害者だと思っていると言っていましたが、要綱案に合意すると言いながら調査を拒否するのでは、はなから要綱案を守るつもりなどないということです。現場の調査をしないままアスベストを除去して証拠隠滅したわけです。根幹の部分が崩れた。園側は信用できません」
明星会の宮下智理事長は「いま皆さんで話し合っている段階なのでコメントできません」などと詳細は明かさなかったが、第三者による検証委員会の設置については、「保護者会や関係者にご相談しながら、これまで自分たちでやってきたので、これからも自分たちの力でやっていきたい」との見解だ。
園側が県に提出した顛末書では2012~2013年の違法工事への対応として、「今後、中皮腫・じん肺・アスベストセンターのお力をお借りしながら、鈴木建築設計事務所、トライネットから当時の作業状況の聞き取りを行い、健康リスクについてできる限りの明確化を行った上で、健康対策を今回の被災者同様に進めて参る所存です」と表明しているのだが、実現にいたっていない。
保護者らは県や市に対し、第三者の専門家による事故の検証委員会を設置してリスク評価や健康管理、万が一の補償などを検討するよう要望書を提出した。
7月中旬、県を訪れた保護者の1人はこう訴えた。
「最後の最後で園に裏切られた。いくらこれから園側がきれいごとを(要綱に)書いても、20年後、30年後に中皮腫になっても補償なんて誰も受けられないんじゃないか。現地調査すらさせないってことは事実認定もしない。以前新聞に語ったのと同じように『当時のことはわかりません』といって、アスベストを吸った事実はないと無視するとしか思えません。2012年の工事のほうが期間も長く、ひどかったと聞いていますが、当時お子さんを預けていた人がすごく心配しています。園も(対応)しない。業者もしない。だとしたら行政がするしかないじゃないですか。もう県に頼るしかないんです。将来被害にあった場合、きちんと補償を受けられるようにしていただきたい」