◆「50代の進歩既得権の男性」の代弁紙に堕したと批判
若手記者たちは、声明文の中で次のように怒りを書いている。
他社の記者たちは、手足が縛られた<ハンギョレ>の記者を公然と嘲笑する。内部では、<ハンギョレ>は「新積弊」「旧態メディア」という自嘲的な会話が出てくる。文在寅政府が発足した後、「民主党機関紙」という汚名をしばしば聞いたが、今程ひどい時はなかった。
50代の男性による、50代の男性のための新聞を作って、読者から「絶読」される事態になっている。
2030(20~30代)の取材対象たちは、「私たちはこんなに怒っているけれど、<ハンギョレ>は載せられるんですか? <ハンギョレ>は政権批判をまともにできないんでしょう?」と不信を口にした。
1960年代生まれで、80年代に大学に通った世代を、韓国では「86世代」と呼ぶ。80年代の反独裁民主化闘争を中心で担った世代だ。50代になった現在では、政財官の中心を占めるようになり、文在寅政権でも中枢に座っている。チョ・ググ氏も、ハンギョレの編集幹部の多くも「86世代」だ。この世代の社会意識や価値観で新聞が作られており、若い世代は軽んじられている、そんな強い不満が若手記者の声明に現れている。
さらに強烈なのは声明の後半に出てくる次の一節だ。ハンギョレの体質が、すっかり文在寅政権べったりになっていると、編集幹部たちを激しく批判している。
これ以上、私たちに恥ずかしい思いをさせるな。「記者」の名前によって言論の自由を押さえつけたいなら立ち去れ。過去の先輩たちのように、青瓦台へ、与党へ行け。<ハンギョレ>と言論の自由、そしてあなたたちが言う正義は、我われが守る。
「過去の先輩たちのように」とは、文在寅政権に相次いで入ったベテラン記者たちのことを指している。社会部長、論説委員を歴任した金宜謙(キム・ウィギョム)氏は、文在寅大統領府の顔である報道官に就いた(金氏は官舎に住みながら投機目的で高額のビルを買い入れた疑惑を受け2019年3月に辞職)。現役論説委員だった呉泰奎(オ・テギュ)氏は、文在寅氏が大統領選挙出馬を決めると、選挙参謀として陣営に直行した。呉氏は、文政権発足後、在大阪韓国総領事に就任した。
ハンギョレは、朝鮮日報やKBS(韓国放送公社)などのメディアが、保守政権と人事面で太いパイプで繋がることで権力となれ合いになっている批判していた。ところが、文政権になってから、ハンギョレ自身が変質して権力からの独立性をなおざりにするようになった、と告発しているわけだ。
大量の若手・中堅記者による「決起」を受け、ハンギョレ新聞労働組合は、9日に「ハンギョレの危機を克服するため全社員討論会」を開催した。その内容については、9月22日時点で何も公表されていないが、若手記者がこのような異議申し立てをすることが、ハンギョレに独立の気概が継承されていることの証なのだろう。
若手の記者の声明の全文を記す。日本語訳は南正学と石丸次郎による。()内は追加説明。