カナアーンは当時、父親が撃たれた現場から拾ったイスラエル軍の薬莢を集めていた(ガザ地区ゼイトゥーン・2009年撮影:古居みずえ)

◆今月、10年ぶりに再会

パレスチナ自治区西部のガザ地区は、地中海に面し昔から漁業が盛んだったことと、海辺にはホテルが立ち並びリゾート地だったことは意外と知られていない。その海辺で一心不乱に海に網を投じ、漁をしている若者たちがいた。その一人は私が制作したドキュメンタリー映画「ぼくたちは見た -ガザ・サムニ家の子どもたち-」(2011年劇場公開)の主人公の一人、カナアーンだった。彼は当時12歳だったが、今では背丈のある立派な23歳の若者に成長していた。(古居みずえ・アジアプレス)

手術後、カナアーンはリハビリを受けていた(ガザ地区ゼイトゥーン・2012年撮影:古居みずえ)

2009年1月、イスラエル軍はガザ地区に地上侵攻し、パレスチナ人の家、一軒一軒をしらみつぶしに侵攻していった。カナアーンはこのときのイスラエル侵攻で、目の前で父親と弟アハマドが殺されるのを目撃した。彼自身にも、そのとき受けた銃弾の破片が今でも体内に残っている。当時、彼は一日の大半を壊された家の近くで過ごし、「お父さんに何が起きたのかを忘れたくないから」と、父親の血のついた石や薬莢を集めていた。

状況が落ち着いてから、体内の破片を取り除く手術をした。一時はリハビリを続けながら、運動ができるまで回復した。しかし後遺症が残って、長い時間働くことができず、家でブラブラしていた。このままだと家に閉じこもったままになるのかと心配だった。

魚の網を張るため、仲間とボートを漕ぐカナアーン(ガザ地区・2019年撮影:古居みずえ)

2014年、イスラエルの侵攻が再びあったとき、カナアーンたちは、ガザ市内の中心に近いところまで避難した。それでも避難先の近くのモスクが攻撃され、再び、恐怖を味わった。

2018年8月に再会すると、ひ弱で暗い顔をしてカナアーンが驚いたことに漁師になっていた。海で働く彼は一回りたくましく成長していた。ほかにも兄弟や親戚らが一緒に働いていた。
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