反政府デモには知識人らも参加している。写真右端がジャーナリストのタハシーン氏(11月上旬ディワニヤにて撮影・タハシーン氏提供)

政府の汚職や失業、生活困窮に怒りを爆発させた市民の大規模な抗議デモ。バグダッドや南部でデモの取材を続け、アルアラム・アルジャディド紙などに寄稿する、ジャーナリストのタハシーン・アルズルガニ氏(49歳・ディワニヤ在住)に、拡大するデモの背景について電話で話を聞いた。【聞き手・玉本英子/アジアプレス】

◆フセイン政権崩壊したが 民主主義遠く 生活苦だけが残った

タハシーン氏:デモにはあらゆる世代が参加しています。フセイン政権時代を経験した人たちは24年間、独裁政権下での暮らしを強いられました。2003年のイラク戦争でフセイン政権は崩壊しましたが、この16年のあいだ、政治家たちは自らの利益ばかりに動き、人びとは生活困窮に苦しんできました。デモに参加する市民らは現在の政治家たちの即時退陣を要求しています。イラク憲法にある政党による大統領や政治家の選出システムを廃止し、国民による直接投票の実現を訴えています。

バグダッド・タハリール広場でのデモ参加者。中央の緑のラインはデモ隊が治安部隊に向けて発するレーザーの光。(2019年11月9日撮影・フセイン)

一方で、デモに参加する人たちの中心になっているのは20代の若者です。たとえば南部地域でのデモにはこれまでシーア派民兵として、「イスラム国」(IS)との戦いに参加した若者たちの姿もあります。掃討作戦でISは敗退しましたが、同時にシーア派民兵としての職を失った人も少なくありません。将来が見えない彼らの鬱積が爆発したともいえると思います。

◆「アラブの春」を知らない若者たちのデモ

タハシーン氏:彼らの多くは、8年前に起きた「アラブの春」を知らない世代です。「アラブの春」はエジプトでムバラク独裁を倒しましたが、のちの混乱のなかムスリム同胞団が台頭したり、シリアでは内戦という最も悲惨な結果となりました。今回のデモをきっかけにイラクが再び混乱に陥るのではないかとする人もいるかもしれません。政府はどう事態を収束させるのか、取材を続けたいと思います。

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反政府デモは、すでに一か月以上におよび、治安部隊との衝突で死者も300人を超えた。

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