◆3週間後の測定で「安全」主張
少量だから飛散しないなど明らかなウソだ。ごく少量であっても人を殺しうるのが「殺人繊維」の異名を持つアスベストである。だからこそ、外部への飛散がないよう隔離養生や負圧除じんに加え、作業者のフルフェイスの防じんマスクや防護服の着用といった曝露防止対策が義務づけられているのだ。
すでに述べたように、今回の違法工事では、9月4~5日の屋根撤去以降、吹き付けアスベストがむき出しのまま放置され、風雨にさらされる状況であった。同監督署や市環境保全課、市建築課いずれもがその間のアスベストの飛散は否定できないとの立場だ。
そもそも現場におけるアスベストの残存状況すらきちんと調査されないまま屋根を撤去。屋根の裏側にも吹き付けアスベストが付着していた可能性もあるが、調査も飛散防止対策もなかった。
そうして3週間余り現場は雨ざらしのまま放置された。同28日の環境測定で大気中からアスベストは検出されなかったが、あくまで3週間以上経過し、固化剤で飛散防止された後の測定結果でしかない。当然ながら、その間のアスベスト飛散状況は不明である。とくに屋根を撤去した作業時や固化剤塗布前に実施されたとみられる散乱していた吹き付け残存物の撤去といったアスベストの飛散リスクが高い作業時についても測定データが存在しない。
ところが、説明会でその3週間の間に現場周辺を散歩するなどした住民から将来的な健康の不安を問われた業者側は9月28日の測定結果をもとに「安全です」と断言した。3週間後の測定データで、作業時の状況などわかるはずがない。その点を筆者が指摘すると、業者側は何も答えなかった。
さらに林社長が「うちのほうはかかわった従業員にぜんぶ一回検査する。地元の方が心配で一回受けたいというのであれば対応する」といったのにも驚かされた。
アスベストによる中皮腫など健康被害は曝露から数十年後に発症する。曝露から2か月程度で検査を受けても、この段階で被害などわかるわけがないのだ。林社長はこの程度の基礎知識すらない“素人”なのか、あるいはそんな知識もないであろう住民をだまそうとする意図があったといわざるを得ない。
筆者が現段階の検査では放射線曝露するだけなので将来的に検査するようしてはどうかと聞いたが、これに対しても同社は明確な回答をしなかった。