豊橋労働基準監督署による作業停止命令が解除された後の旧生活家庭館(井部正之撮影)

◆第三者による徹底監視・測定を

過去のアスベスト除去の取り残しをめぐっては、把握されないまま解体が発注され、何の対策も講じられないことが少なくない。それに対し、豊橋市建築課は調査をして取り残しを把握し、発注仕様にアスベスト除去の作業手順まで記載していた。

今回の違法工事は発注前から示されていた作業手順を完全に無視した結果である。林社長は「プロとして恥ずかしい」と話したが、はっきりいって“プロ失格”である。

しかも同社側は隔離養生前に屋根をすべて撤去してよいか市に確認し、市の合意を得たと言い訳した。だが、仕様書の手順に反し、アスベストを飛散させかねない屋根の撤去に同意するなどあり得ないことだ。当然ながら市は否定している。

そんな提案をすること自体、発注前から示されていた作業の内容や手順を理解していなかった証拠にほかならない。仮に市が同意したとしても、アスベストを飛散させる違法作業であることは変わらない。市側が同意したから自分たちの非はないかのような発言は、自らの違法工事を棚に上げ、市に責任を押しつける言い逃れであり論外だ。

あげくに林社長は、アスベストの飛散防止の「隔離養生」ではなく、建物外周にパネルフェンスで「仮囲い」せず屋根を撤去したことが問題だったと力説したのだからひどいものだ。

監督署などの指導後ですらこうした主張をしていることから、いまだに今回の解体工事におけるアスベスト対策の重要性や作業手順をきちんと理解していないといわざるを得ない。

林社長や同社関係者は、ほかにもアスベスト含有の成形板などについては「掲示義務はない」など、現行の規制を無視した発言を連発。10日の説明会でも心配する住民に早く工事再開させるよう迫ったうえ、台風などでまた養生が破れたら「責任をとれるのか」と恫喝めいた発言をしたと参加者から聞いている。発言が事実であればだが、天候の影響を受けやすくなったのは同社の違法工事が原因であり、住民を責めるのはお門違いも甚だしい。

同社の示した再発防止は、施工管理を徹底するなどごく当たり前の内容である。要するにただ「頑張る」だけにすぎない。規制や前回違法工事の問題点すら十分理解できていないのに施工管理などできるわけがない。そもそも違法工事により作業停止の行政処分後もこんなトンデモ発言を繰り返す業者を誰が信用などできようか。第三者機関による徹底した監視や測定、完了検査なしに工事再開などあり得ない。さらにいえば、違法工事の発覚段階で、現場周辺でアスベストによる土壌などの汚染状況も調査していないことも問題であり、これもきちんと系統立てて実施する必要があろう。

市建築課は6日の説明会に出席していながら、業者側のトンデモ発言を制止や訂正しなかった。今回の違法工事では業者の責任が大きいとはいえ、こうした対応では発注者としての責務を果たしているとはいえまい。契約解除も可能なはずだが、そうしないのなら市側にも徹底した再発防止のための取り組みが求められる。

同社は以前の記者会見では平謝りだったそうだが、マスコミに文句があるなら改めて会見を開いてはいかがだろうか。6日の説明会では住民が主役のため極力発言は控えたのだが、その際には徹底的に質疑させていただこうと思う。

残念なことだが、こうしたずさんな工事は日本全国めずらしくない。そして、事業者側のアスベストに対する認識も、とんでもないことだがこの程度であることが少なくない。林社長も話していたように「石綿は素人」の建設業従事者がじつはいたるところでアスベスト建材を認識もないまま、あるいは飛散しないと思い込んで、いい加減に撤去・解体してアスベストを飛散させ、そして自らも曝露している。

こうした工事はアスベストを周辺にまき散らす“無差別テロ”といってよい行為であると同時に、作業者自身もそれを吸ってしまう“自爆テロ”でもある。そんな“自爆テロ”が全国いたるところで相次いでいる。

世界第2位の「アスベスト消費大国」である日本で、それももっとも被害者の多い建設業においてアスベストの危険性が十分認知されていない状況はきわめて深刻である。ただでさえ規制が緩く、抜本強化が必要とかねてから指摘されているが、厚労・環境両省における現状の改正方針では残念ながら現場の状況はほとんど変わるまい。

このままでは今後も今回の豊橋市における違法工事のような発注仕様の手順すら理解できない残念な業者による“自爆テロ”が繰り返される。あげくに住民に「飛散しない」「安全」などとのトンデモ発言を浴びせ、労働者だけでなく環境曝露の被害も増え続けることになろう。厚労・環境両省はいまからでも規制の抜本強化と徹底した監視・執行の実現に向け、検討をやり直すべきである。

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