◆広河氏の性暴力、セクハラ・パワハラ事件の重さ
昨年12月の週刊文春報道で明らかになった、フォトジャーナリスト・広河隆一氏の性暴力やパワハラ事件の数々。報道を受け、同氏が代表だった月刊報道写真誌デイズジャパン(以下、デイズ)は、その最終号で、この問題を「検証」した。第一部は弁護士を含む検証委員会報告、第二部は検証委員会とは独立した構成のもと、「性暴力を考える」とし、ジャーナリストや学者、識者の寄稿・インタビューという形式で、私は戦場での性暴力被害を取材してきた者の立場から協力した。依頼を断った人もいたというが、私が寄稿を引き受けたのには理由がある。私は広河氏と直接の面識はないが、デイズに私がイラク取材で撮影した写真が掲載されたことがある。そのデイズ編集部スタッフや関係者が性暴力やパワハラ被害に遭っていたことに、心が痛んだ。デイズの最盛期には写真家やジャーナリストのなかには掲載を望んだ人も多数いただろう。フォトジャーナリズムの現場でなぜこんなことが起きてしまったのか。デイズという広河氏自身が手掛けた媒体に、一連の行為が何を意味するのかを刻むべきではないかと私は思った。最終号(2月)の「検証」は中間報告とはいえ、不満だった。文春報道から1年を経て出された今回の検証委員会報告書(12月26日付)は、それよりも踏み込んだものとなった。広河氏が今もって問題の深刻さを認識していない事実はあまりに重い。
以下は、デイズ最終号に私が寄稿した文(聞き手・まとめ/岩崎眞美子氏)に一部加筆修正を加えたものである。(情報は当時のまま)
◆戦争取材重ねてきたジャーナリストの性暴力
戦争では、もっとも弱い立場にある女性や子どもたちが様々な被害を受ける。そのひとつが性暴力だ。私は過激派組織・イスラム国(IS)の性奴隷にされたイラク北西部の少数宗教ヤズディの女性たちを継続して取材してきた。町や村を襲撃したISは、ヤズディ女性を拉致し、「戦利品」として戦闘員に分配した。そのなかには小学生の女児までいた。夫を目の前で撃ち殺され、戦闘員に繰り返しレイプされた若妻。少女を毛布に隠し、先に連れ出された主婦たち。耐え切れず、自ら命を絶った者も少なくない。レイプは身体的な傷を負わすばかりか、人格と尊厳を否定する。
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