◆「産油国なのに市民生活困窮」怒り広がる
イラクの首都バグダッドや南部地域では2019年秋から大規模な反政府デモが続く。政治家の腐敗を糾弾し、改革を訴える若者を主体とした抗議行動は、国政を揺るがす事態になった。政府への抗議デモ発生以来、私はネット電話でバグダッドのデモ参加者たちと連絡をとり、彼らの思いを聞いてきた。(玉本英子/アジアプレス)
アルバイト店員のフセインさん(23)は、2019年10月から行動に参加。「産油国なのに市民生活は困窮。アメリカやイランに振り回されても、政治家は自分のことしか考えていない」。彼は、このまま沈黙すればイラクに未来はない、との思いで加わった。
抗議行動の拠点となっているのは、市内中心部のタハリール広場だ。周辺では数百人がテントなどに寝泊まりしながら、連日抗議行動を重ねてきた。「政治や社会への不満を抱えていた若者たちが一体感を共有できたのが、あの広場だった」とフセインさんは話す。
6年前、過激派組織イスラム国(IS)が急速に台頭し、北部の大都市モスルほか西部地域が次々と制圧された。国家的危機のなかイラク市民はISとの戦いを支持。政府は軍や警察、民兵部隊の総力を投じて、IS地域を奪還し、ISを壊滅状態へと追い込んだ。
だがその後、市民の怒りは政治家の腐敗や社会の不公平に向けられるようになった。イラクへの政治的影響力を拡大したイランへの反発もあり、反政府デモとなって爆発した。大学を卒業しても就職できない者や、IS掃討戦に参加したシーア民兵で除隊後に仕事にありつけない者など、若い世代がデモに次々と加わったのも特徴だ。
昨年11月、アブドゥルマハディ首相は辞任を表明した。だがデモは終息せず、これまでに500人を超える死者が出ている。
次のページ: ◆治安部隊の発砲で死亡... ↓
1 2