◆営業中の店内で高濃度飛散か

鹿児島労基によれば、無届け作業の期間は2019年5月14日から6月25日までのうち、じつに計21日間(5月14~31日、6月19~20日、同25日)に及ぶ。しかもそれらの作業は山形屋の営業時間中に実施されていた。

市によれば、同社側は同6月26日に建物の敷地境界4カ所と1つ上の6階で測定した結果から「建物外及び6階フロアへの飛散がなかった」と主張した。

しかし、同社の測定はあくまで作業が終わった翌日に実施されたにすぎず、しかも不適正工事のあったのとは異なる階である。作業時に飛散がなかったことを裏付けるものではない。

まして現場で不適正に除去されたのは発がん性の高い青石綿を50~100%という高濃度で含む吹き付け材46平方メートルあまり。無届け作業の期間中は当然ながら測定などしておらず、どれだけ飛散していたのか実態は不明である。だが、作業をしていた5階北東区画から相当高濃度の飛散があったとしてもおかしくない。

青石綿は飛散しやすく除去作業では現場内のアスベスト濃度が空気1リットルあたり数十万本に達していることも少なくない。外部に飛散すれば、同数百本から一千本単位となっていてもおかしくない。

実際に2013年12月、名古屋市市営地下鉄・六番町駅で起きた飛散事故では駅構内で青石綿を空気1リットルあたり710本検出している。住宅地域の全国平均は2018年度で同0.26本であり、通常の2700倍超というとんでもない濃度だった。

前室が設置されていても管理がずさんな場合、前室前で同数百本といった濃度で検出されたりする。今回は前室すらなかったのだからもっと高い濃度の可能性すらある。老舗のアスベスト除去業者はこう指摘する。

「(場内を)負圧にしてても作業員が出入りするだけでアスベストを外に持ち出したはずです。作業員の出入りの回数ごとに一定の時間、空気1リットルあたり200本とか出ていてもおかしくない。それが21日間もあったとしたら、相当飛んでますよ」

そもそもこの件では一部の飛散防止措置を講じていたとの大成側が主張しているが、本当かどうかすら怪しい。

分析機関や除去業者に聞いてみると、「届け出もしないような現場で(アスベストを外部に飛散させないようにする)隔離養生や負圧除じんをするわけがない」と口をそろえた。

市によると、大成側は今年度に5階の作業だけで5件の届け出をしているという。にもかかわらず、今回はあえて不適正な作業をした。老舗除去業者はこう推測する。

「届け出された場所もあったのなら、変更手続きをすればすぐ作業に入れます。書面の準備や届け出の手間で1日2日掛かりますけど、大手を振って除去できますからそのほうが面倒がない。その手間すら惜しんでいるとなると、実際には隔離養生や負圧除じんもしてなかったのではないか」

つまり、外部へのアスベスト飛散防止措置を一切していなかった可能性すらあるのだ。

仮に大成側の説明どおりでも、営業中の百貨店で断続的に空気1リットルあたり数百本程度のアスベストが垂れ流しになる状況が計21日間続いた可能性がある。隔離養生などがなかった場合、作業時に発生する同数十万本というきわめて高濃度のアスベストがフロア中に拡散し続けたとしてもおかしくない。

山形屋広報課は「飛散対策はしっかりしてたと聞いてます」と戸惑い気味に答えた。不適正な作業があったことは大成側から説明されていないという。当然ながらテナントや利用客に何も知らせていない。

大成建設にも事実確認したが、何を聞いても「個別工事の詳細はお答えしてない。真摯に受け止めて再発防止に努めて参ります」(広報室)と繰り返すのみ。

環境省が2017年4月に公表した「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン」では不適正工事などが発生した場合、説明会などを開催して周辺住民らに事故の状況などを説明することが求められている。しかもこのガイドラインの作成には同社社員が検討会の委員としてたずさわっている。

しかも同社はコーポレートガバナンス基本方針に「適切な情報開示と透明性の確保」との1項目を設け、リスクや環境面の情報について「法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外においても、これらの情報をステークホルダーにわかりやすく、積極的に提供するよう努める」と謳っている。

ところが、昨年5月から6月の事故発生時から書類送検後の2月24日現在、同社ウェブサイトでこの違法工事について発表されていない。そのことを聞いても、同社は「その点につきましてもあくまで真摯に事実を受け止めてます」と誠意のない回答である。

不適正工事をしても事実すら明らかにしない。それが大成建設のコーポレートガバナンスである。「安全・安心で魅力ある空間と豊かな価値を生み出し、次世代のための夢と希望に溢れた地球社会づくりに取り組んでいきます」との理念のなんと空々しいことよ。同社は今後もアスベストの不適正工事を繰り返しては、「真摯に事実を受け止め」るのだろう。

老舗除去業者はこう心配する。

「一番かわいそうなのは飛散のあった5階のテナントに勤めている人たちですよ。何も知らされないままアスベストをたくさん吸わされた可能性がある。30~40年後、中皮腫などの被害が出るおそれすらあると思います」

★新着記事