鹿児島市の百貨店「山形屋」で2019年5月から6月にかけて、営業中にアスベストが飛散した可能性のある不適正な除去作業が実施されていたことが明らかになった。(井部正之/アジアプレス)
◆アスベスト除去する設備省略
1月20日、鹿児島労働基準監督署は吹き付けアスベストの無届け除去作業を実施したとして建設大手の大成建設(本社:東京都新宿区)と現場作業所の所長(58歳)を労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)違反の疑いで書類送検した。大手ゼネコンの送致とあって、各メディアが一斉に報じている。
同労基が非公表としたためほとんど知られていないが、無届け工事のあった現場が山形屋1号館(同市金生町)である。
問題はこの工事が単に届け出をしなかったというだけでなく、実際にはアスベストが飛散していた可能性がきわめて高いにもかかわらず、その事実が報じられていないことだ。
鹿児島市環境保全課によれば、不適正な作業があったとみられるのは山形屋1号館(同市金生町)5階の北東側区画。改修工事中に柱を覆う化粧板を撤去したところ、クロシドライト(青石綿)を50~100%含む吹き付け材が見つかった。
新たにアスベスト含有が疑われる建材が見つかった場合は調査や分析で確認し、実際に含まれていれば施工計画の策定をする必要がある。
ところが大成建設は「1カ月以上工事が止まり、百貨店営業に影響が生じる」と勝手に判断して手続きを省略。「届け出なしに工事を実施した」と、のちに市に報告している。
だが、実際には単なる無届け工事ではなく、アスベストを飛散させる不適正作業とみられる状況が明らかになった。
筆者の取材に対し、市環境保全課が大気汚染防止法(大防法)の「作業基準に一部遵守できてない部分があった」と認めたのだ。鹿児島労基は送検した内容以外すべて非公表としている。
2019年7月12日、同労基から無届け工事について連絡を受けた市環境保全課が同社から聞き取りをしたところ、吹き付けアスベストの除去において大防法や石綿則で義務づけられた対策の一部が講じられていなかったことを明かしたのだという。
こうした除去作業では、吹き付けアスベストが使用された場所以外をプラスチックシートと粘着テープでふさいで密閉に近い作業空間をつくる「隔離養生」をおこなう。そのうえで強力な換気扇のような装置で場内の空気を吸い出し、圧力を外部より低く保ちつつ、装着されたフィルターでアスベストを除去する「負圧除じん」により、清浄な空気だけを外部に排出する。現場の出入口には、除去作業時に労働者がアスベストを洗い流すエアシャワーや更衣室を設置した「セキュリティゾーン(前室)」を配置する。
理由ははっきりしないのだが、大成建設はこの前室の設置をしなかったことを認めていると市は説明する。
前室がなければ、労働者が防護服などに付着したアスベストを洗い落とすことができない。当然アスベストまみれのまま外に出て着替えることになる。外部への飛散はまず間違いあるまい。除去された吹き付けアスベストなどを入れた廃棄物も同様に適正に洗浄されず外に持ち出されたことになり、これらの移動時の飛散も懸念される。
市によれば、大成側はアスベストを除去できる真空掃除機で「防護服を吸ってから外に出た」と釈明しているという。だが、その程度で外部への飛散が防げるのであれば、そもそも前室の設置義務などあるわけがない。
市環境保全課も「どこまでとれたか厳しいところがある。そのため前室が法的義務となっている」と認める。アスベストが作業場外に飛散した可能性がきわめて高いといわざるを得ない。