厚生労働省がアスベスト規制強化をめぐり改正内容の一部を公表しないままパブリックコメントを実施する珍事が起きている。関係者から「改正内容がわからない」と困惑する声が上がっているが、同省は6月5日に終了する予定。(井部正之/アジアプレス)

1週間延長も内容は修正されず、結局「項目」のみ記載した厚労省のパブコメ

◆1週間延長も内容改まらず

同省は労働者の保護を目的に建物などの改修・解体時のアスベスト規制を定める労働安全衛生法(安衛法)の「石綿障害予防規則(石綿則)」とこれに関連して、アスベストの事前調査を実施する資格制度を定める「建築物石綿含有建材調査者講習登録規程」を改正するとして、4月30日に2件のパブリックコメントを開始した。

ところが、各パブコメで改正案は示されず「概要」だけだった。アスベストの調査方法では「目視及び設計図書により石綿等の使用の有無を確認する方法以外の調査方法を追加すること」との例外措置が記載されているが、具体的な内容が示されていない。実際の例外措置が妥当なのか判断しようがない。あげくに調査を担う資格者を育成するための講習制度に関しては、講習の講師の要件、講習の実施方法、講習の講義内容との「項目」が箇条書きで示されただけで、改正内容はいっさい公表されない始末だ。

アスベストの調査や除去を担う事業者は「意見募集の内容がわからない」「何を聞きたいのか書かれていないのにどうしろというのか」と困惑する。

筆者が5月28日にこのずさんなパブコメ実施について報じたところ、共産党の田村貴昭(衆議院議員)事務所が記事をふまえて厚労省に問い合わせた。同省は「わかりやすさの観点から(中略)それぞれ、改正事項のポイントを概要としてお示ししています」「所要の改正を行うこととした旨をお示ししており、検討の経緯を含めた全体像についてご案内しています」と対応に問題はないと主張。

一方、「よりアクセスし易くする観点から」検討会報告書を5月29日から掲載し、パブコメの期間を1週間延長した。

だが、同省はパブコメで示している改正概要には手を加えておらず、結局一部の記載が省略されたままである。

行政手続法第39条第2項はパブコメで示す改正案などについて「具体的かつ明確な内容のもの」であることを規定。同法を所管する総務省行政管理局行政手続室は「法律に具体的かつ明確なものであってとあるので網羅的に明示されている必要があり、一部の例示では足りない」と指摘している。

同省の2006年通知は、最終的な規定事項が「具体的かつ明確に記載されている必要がある」としたうえで、「何をどのように定めることとしているかが網羅的に明示されている必要があり、定めようとする事項の一部の例示では足りない」「定めようとする内容が例えば部分的にしか分からないような概括的なものであってはならない」と求めている。

この通知に照らせば、改正内容の一部が省略されたままの今回の2件の厚労省パブコメは不適切であり、行政手続法違反の疑いがある。

6月3日、パブコメを実施している厚労省化学物質対策課は「内容についてわかりやすく、かつ、網羅的であると考えています」と強弁。パブコメが不適切との指摘に対しては「ご意見として承ります」と繰り返す。

だが、改正内容の一部がパブコメで示されておらず、意見を出す国民に知り得ない以上、まさに総務省通知にあるように「部分的にしか分からないような概括的なものであってはならない」との定めを逸脱しているのは明らかだ。やはり厚労省による今回のパブコメは法違反の可能性が高い。罰則も存在する省令改正をめぐるパブコメで具体的な改正内容を示さないなどあってはならない。当たり前のことだ。

今回の厚労省のパブコメは行政手続きのずさんさが際立っている。改正内容をきちんと示さず意見を募集するなど、もはや“ツッコミ待ち”の“ボケ”としか思えない。筆者も20年以上、同省を取材しているが過去に見たことがない珍事である。行政的に相当情けない対応といわざるを得ない。

同省は猛省のうえで記載内容を修正し、パブコメを再実施すべきだ。今回きちんと対応しなければ、改正内容を示さないお粗末かつ法違反のパブコメが当たり前になりかねない。

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