◆6月の内部文書に書かれていたのは…
私の手元に、政治局拡大会議の半月前の6月中旬に発行された労働党の内部文書がある。平安北道(ピョンアンプクド)の取材協力者が入手したものだ。タイトルは次のように長たらしい。
「敬愛する最高領導者金正恩同志の2020年6月1日批准方針 新型コロナウイルスの伝播空間を見つけて対策を取るための事業過程で提起された問題を了解した資料と対策報告」
発行したのは「中央非常防疫指揮部」の政治分課である。これは、コロナウイルスの中国での流行を受けて、1月末に緊急に設置された部署だ。
文書の性格について説明しておこう。
の「批准方針」とあるが、これは次のような意味である。
北朝鮮で<批准>とは、「最高指導者の承認」の意味で、各組織が上げた<提議書>を金正恩氏が了承したことを意味する。<方針>も最高指導者に対してのみ使われる用語で、「指示として下達」されたことを意味する。
つまりこの文書は、「中央非常防疫指揮部」がコロナウイルス対策に関する<提議書>を金正恩氏に上げ、それが認められて<方針>となり、対策を取る過程の<了解>=確認作業を行った、というものだ。
文書を入手した協力者は、その用途を次のように説明する。
「『中央非常防疫指揮部』が作成した提議書を金正恩氏が承認したので、全国に公開的に周知徹底させるために各組織に示された基礎文書です。秘密度は高くありませんが、この文書をもとに各地の住民や組織の学習資料、講演用資料が作られます」
◆コロナ発生を示唆していた内部文書
文面を見ていこう。()内は石丸による付記。
「朝鮮労働党委員長同志(金正恩氏)が下さったお言葉と批准方針を徹底して貫徹するために、中央非常防疫指揮部政治分課では、各級の非常防疫指揮部が国家的な非常防疫事業が長期化するのに合わせ、国境と海岸、分界線(韓国との軍事境界線)に対する封鎖をさらに強化すると共に、新型コロナウイルスの伝播空間を見つけ出して対策を取るための事業を進める過程で…」
外からのウイルス侵入を防ぐとともに、国内に伝播した場所を把握せよと読める。この内部文書を、保衛省(秘密警察)出身の脱北者に見てもらったところ、次のように解説した。
「国内でコロナウイルス感染者がすでに出ていることを前提にした書き方のように読めます。拡散しないように、感染者の発生をしっかり見つけ出して把握せよということでしょう。一般公開する際には文面は検閲変更されるはずです」
文書には「感染者ゼロ」を否定する文言はないが、発生を示唆したものと読めるというわけだ。