◆再開発組合「説明会は必要ない」
改めて住民らは施工計画も含めた説明会の再実施に加えて第三者機関によるアスベストの再調査、除去作業中における監視・指導、完了検査の実施などを申し入れた。
再開発組合は同31日、「施錠未調査」のエレベーター室は、引き渡しが済んでおらず未調査となっていた別の建物の電気室と併せ、9月4日以降に調査予定だったと釈明。先行して調べて「竣工当時の採取した試料と同建材のロックウールを目視にて確認」したなどと回答(1カ所は今後調査予定)。
さらに9月3日、再開発組合は指摘を受けていた「調査ミス」について、「必要な調査は完了しており調査漏れはない」と反論。そのため説明会も「必要ない」と主張。住民側の申し入れをすべて拒否し、「今後工事の準備を進めることは問題がない」と強硬姿勢をみせている。
しかし、調査報告書にいくつもの調査漏れとみられる不備があったのは間違いなく、再開発組合や元請けのアサノ大成基礎エンジニアリングも認識しているはずだ。再開発組合側の「調査漏れはない」との主張は、報告書の不備を無視して、実際はこうでしたと後付けで説明しているに過ぎない。
前出・アスベストセンターの永倉氏はこう指摘する。
「現状では事業者側が自分たちの調査結果は正しいと主張しているだけで第三者がそれを裏付けていない。その主張が本当かどうかわからない状況です。まずは第三者がみたうえで住民に説明するまで工事を止める必要があります。東京・築地市場の解体では100カ所くらいで除去工事があって、第三者の監理会社が施工時の監視・指導を徹底的にしたうえ、完了検査もしています。さらに私や中央区もすべて立ち会って検査しています。ここでも住民が非常に近いところにいるわけですから、そうした対策が必要です」
ほかにも大阪府守口市の旧庁舎解体や東京都新宿区の旧厚生年金会館の解体工事でも、実際に第三者によるアスベストの再調査や監視・指導、完了検査が実施されている。とくに新宿区の旧厚生年金会館解体は民間工事だったが、新宿区が第三者に委託し実現した。
そもそも施工監理を委託することなどごく普通だし、外資系企業を中心に国内でも以前からそうした取り組みは広がっている。まして、きちんと届け出をした除去工事でも環境省が調べたところ、4割超で外部にアスベストが漏れているのが実態だ。事前に協力に合意し、日程調整したうえでの測定でそれだけ垂れ流しなのだ。住民が徹底した監理や監視を求めるのも当然だろう。
また事前調査結果で見落としがあれば、アスベストの飛散に直結するし、工事を完了したと思っても、取り残しがあればやはり解体工事で飛散する。やはり第三者がきちんと確認する仕組みが必要だ。
新宿区を参考に板橋区が独自に対応してもかまわないはずだが、8月21日に聞いた際、区環境政策課は「うちではできない」と即座に否定した。区は独自に定めた「指針」に基づく届け出の審査が途中で工事が開始されても「止める権限がない」と明言。及び腰の姿勢に住民は不満をつのらせている。
再開発組合のこの間の対応に対し、計画道路の地権者の1人は「人の命にかかわることですから、より安全性の高い方法でするのが当たり前。まして公共性の高い再開発なんだから。こんな対応では再開発組合を信用できない。これだけ人通りがある商店街でアスベストを飛ばすようなことがあってはならない」と憤慨している。
同4日、再開発組合に確認したところ、吹き付けアスベストなど「レベル1とかは届け出中」と着工に向けた準備が始まっていることを認める。成形板など届け出の必要ないレベル3建材の除去については「まだ始めてません」というが、いつ着工してもおかしくない状況となっている。
前出・永倉氏はこう訴える。
「解体工事の際に住民と事業者の間で協議をして進めることを環境省はガイドラインで進めています。今回の件ではきちんとした説明がされてなくて、信頼関係が壊れている。このまま工事が進められたら住民は不安が払拭できない状態です。いまからでも業者も行政も仕切り直しをして、工事を強行しないことが大事です。住民との同意のもとに工事をやっていただきたい。
住民は工事を止めさせるみたいな話をしているわけではなく、安全な工事をしてほしいといっているだけ。ちゃんと同意を形成した上でやるほうが工事も上手くいくし、結果的に費用も掛からない工事になる。そのあたりを業者や区が十分理解できていないのが問題だと思います」