◆英国の2倍超30年間ピーク

1956年には国が経済白書で「もはや戦後ではない」と宣言。ちょうどそのころから吹き付けアスベストの使用が始まった。

戦後復興から高度経済成長期に移行し、ビル建設ブームに乗って輸入が急増。1955年に約2万トンだったのが、1961年に約11万5000トンと5倍増。1970年にはその3倍近い約30万トンまで急激に増えている。

輸入ピークは1974年の約35万2000トン。その後1982年に約23万トンまで減ったが、1988年に約32万トンまで再び増加。1990年代以降にようやく減少していく。使用の原則禁止が2006年。全面禁止が2012年である。

日本で15万トン以上輸入された最盛期は、1967~1997年までの30年間。そのうち20万トン以上だったのは1968~1994年までで、じつに26年間に達する。

中皮腫死亡者数はイギリスで1980年代から増加傾向が強くなり、2016年にもっとも多い2595人となっている。安全衛生庁(HSE)によれば、現在ピークを過ぎて減少し始めているという。現状では毎年2500人超で、2017年までの累計死亡者数6万2299人。今後の推移予測も公表している。

これに対し日本では統計が取られ始めた1995年以降、増加傾向が続いている。現状のピークは2017年の1555人。2019年までの累計で2万6608人。

この数年の微減でピークを過ぎたかのようにみえるかもしれない。しかし、イギリスに比べ、増加時期が遅めで使用禁止も遅いうえ、輸入量が1.7倍超、ピーク時期が2倍超であることを考慮すると、現状では被害の初期段階と考えざるを得ない。

しかも日本の規制はずっと緩く、いまだにイギリスの「15~30年遅れ」の状況なのだ。

日本の中皮腫死亡者数について、早稲田大学理工学部の村山武彦教授(当時)らは「2000年から2029年までの30年間で5万8800人、2039年までの40年間にすると、10万3000人」「95%信頼限界では4万人から26万人」と推計している(2002年4月の講演録より)。

村山教授(現・東京工業大学環境・社会理工学院)は現状について、「ほぼ当時の(10万人超の)推計通り」と説明しており、今後の増加傾向も残念ながら続くとみられる。

HSEは今後の対策しだいでは被害の増減があり得るとして、将来予測にも幅を持たせている。日本では政府による将来予測すら公表されていない。いまだに遅れ続ける日本のアスベスト規制・対策状況では、今後の被害も現在の推計よりさらに増える可能性すらあるといえよう。

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