◆さまざまな視点から「大阪都構想」のリスクを考える
大阪市を廃止し、四つの特別区を設置する、いわゆる「大阪都構想」の住民投票に向け、反「都構想」の論客である藤井聡・京都大大学院教授(公共政策論、国土・都市計画)ら26人の学者が10月11日、大阪市浪速区の大阪府保険医協同組合会館で記者会見を開いた。地方財政や教育、防災など、さまざまな視点から大阪市廃止・特別区設置のリスクを訴えた。(矢野宏・新聞うずみ火)
■京都大大学院教授 藤井聡さん
呼びかけ人の藤井氏は記者会見の趣旨について、「マスメディアでイメージ論が先行した議論が繰り返されている。このままでは大阪市民が適正な判断をすることが困難。大手術ともいえる今回の『都構想』も、リスクをしっかり認識したうえで理性的な判断が求められる」と説明した後、「都構想」に対し「あらゆる学術的視点から考えて論外としか言いようがない。大阪市の廃止は国益が大きく損なわれる」と訴えた。
■京都大名誉教授 河田恵昭さん
防災学の第一人者である河田恵昭・京都大名誉教授は、30年以内に80%の確率で発生するといわれる南海トラフ巨大地震の危険性に触れ、「四つの特別区のうち三つの区が水没する。特に淀川区は淀川を挟んで分散しており、5万3000人が津波で亡くなる。なぜ、不平等な区割りをするのか。行政は銭金勘定でなく、住民の命を第一に考えなければならない」と警鐘を鳴らした。
■関西学院大教授 冨田宏治さん
冨田宏治・関西学院大教授(政治学)は「『都構想』を支えている論理は、かつて橋下徹市長が言った『多数決こそ民主主義』という思想だ。だが、民主主義の本質は『熟議』であり、数の力で押し切る多数決ではない。政令市である大阪市を廃止して、村以下の権限と財源しかない特別区に分割するという「都構想」はそもそも熟議による合意形成の対象となり得る代物ではない。禁じ手とも言うべき知事地市長のクロス選、公明党の不可解な方針転換という熟議を欠いた政治過程の末の住民投票。背後には維新、首相官邸、創価学会本部の間のパワーゲームの影が見え隠れする」と指摘した。
■大阪大名誉教授 小野田正利さん
小野田正利・大阪大名誉教授は、教育学の立場から「2012年3月に維新が中心となって成立させた『教育基本条例』以後、大阪の教育は危機的状況に直面している。目の前の課題に黙々と取り組んできた優秀な教師たちが大阪を離れ、残った教師たちは疲弊の局地にある」と述べ、こう訴えた。
「『都構想』になれば、政令市として有していた優秀な教員確保のための採用や研修の権限を喪失し、学校設置運営に関わる学校の条件整備も、四つの特別区ごとで大きな差異が生まれ、より劣化し貧弱になっていくだろう。コロナ不況の中で大阪市を廃止してしまえば、維新の言う『成長戦略』ではなく、『破滅戦略』になってしまうだろう」
次のページ: ■元大阪市立大教授 木村収さん