◆コロナ防疫の重点は治安対策
金正恩政権が実施している新型コロナウイルス対策=「国家非常防疫体系」は、言葉では「人民の安全」を謳うが、治安対策に重点が置かれているのは明らかだ。
それを表す文書をアジアプレスは入手した。8月25日に中国国境地域の駅や公共の場所に張り出された社会安全省(警察)名義の布告文がそれだ。協力者が剥がして撮影しメールで送ってきた。
布告文には、「国家非常防疫体系」をさらに厳格に維持するためだとして、「国境地帯1-2キロに緩衝地帯を設け、そこに入る者と家畜は無条件、予告なく射撃する」と書かれてあった。全文を掲載する
◆風邪症状でも隔離し一帯封鎖
北朝鮮政権の新型コロナウイルス対策の基本は、外に対しては封鎖、内に対しては「疑わしくは隔離」という強権的なやり方である。
自国が劣悪な防疫・衛生環境にあることを金正恩氏がよく理解しており、強力な伝染病が流入して、もし首都平壌や人民軍、建設動員組織などで蔓延という事態になれば、自力では手の打ちようがなく、ひいては体制が揺らぐこともあり得るという危機意識が反映したものだろう。
それは「疑わしきは隔離」という荒っぽいやり方に現れている。風邪の症状がある人が出ただけで、家族と近隣住民丸ごと3週間前後も外出禁止にし、24時間見張りを立てて一帯を封鎖する物々しさは、現在も続いている。
国境封鎖や無理な隔離の副作用で、生活に窮する人が急増しており、既存の統制秩序に留まっていては生活がままならないと判断した都市住民の中には、職場離脱、山中で焼き畑を営む、放浪、売春などの「逸脱行為」が現れている。中国国境沿いでは越境、密輸に乗り出す人まで出ている。
北部地域に住む取材協力者は次のように語る。
「当局は中国からコロナが入ってくるので徹底して警戒せよと言っているが、暮しが苦しくなった人民が中国に逃げるのを防ぐのが本当の目的だと思う」 (カン・ジウォン)