◆国境封鎖で劇的に経済悪化
北朝鮮国内が、いよいよ深刻な事態になっている。新型コロナウイルス流入を阻むために国境を封鎖して10カ月。貿易と観光が止まり、その余波で輸出品の生産と物流など、多くの仕事が蒸発してしまった。
市場の商売も不振を極め、皆が現金収入を激減させた。老人世帯など都市の脆弱層(ぜいじゃく)に栄養失調や病気で死亡する人が増えていると、各地から報告が続々届いている。
11月23日、中国税関当局が10月の朝中貿易統計を発表した。その数値は衝撃的だった。一カ月間の輸出入総額はわずか165万9000米ドル(約1億7400万円)、北朝鮮の輸入は25万3000ドル(約2650万円)しかなかった。ともに昨年比で99%減、壊滅状態である。国境封鎖で3月以降の対中貿易は大幅減が続いていたが、8月以降、外貨不足で輸入がままならなくなったためだと筆者は見ている。
◆市場には十分なコメ 食糧にアクセスするお金がない
一方で朝中間には統計に出て来ない物流もある。6月以降、大量の食糧とコロナ防疫装備品が中国から支援された模様だ。朝日新聞は食糧50万~60万トンと肥料55万トン、韓国の中央日報は食糧80万トンが、水面下で支援されたと報じている。
事実なら、おそらく軍や警察、党、政府機関、軍需産業など、政権にとって重要度の高い組織や建設動員などに優先供給され、一部が市場に流入しているのだろう。
北朝鮮内の取材協力者によれば、どこの市場でもコメやトウモロコシなどの食糧は十分に売られており、当局の統制もあって価格は安定している。つまり、飢えて死ぬ人が発生しているといっても、食糧不足のためではなくお金がなくて食べ物にアクセスできないことが原因なのだ。
◆「韓国がコロナをまき散らそうとしている」と宣伝
北朝鮮の人々が人道危機に直面しているのは間違いないだろう。厄介なのはやはりコロナだ。金正恩政権は、人の行き来と物資の搬入がコロナ流入を招くとして、貿易だけでなく人道支援の受け入れも制限している。
韓国の支援提案に、北朝鮮は無反応を貫いているが、国内では「敵どもが我が国に悪性コロナウイルスをまき散らそうとしている」と、自国民に荒唐無稽な反韓宣伝を続けている。
徹底した閉鎖と隔離、移動統制でコロナの蔓延は防げているとしても、住民が飢えや病気で命を落としたのでは元も子もない。金正恩氏は、韓国と国際機関からの支援と人員受け入れを決断しなければならない。
※12月1日付けの毎日新聞大阪版に掲載されたコラムに加筆修正した記事です。
- 北朝鮮に飢饉の兆候 コロナ防疫最優先で経済止まる 伝染病より収入減が切実な脅威に (2020-12-15)
- <動画・北朝鮮女性インタビュー>コロナ禍の北朝鮮はどうなっているのか 1 「経済悪化で売春する女性が増えています」 (2020-12-14)
- <北朝鮮内部調査>消えてしまった石鹸、生理用品、トイレ紙、醤油… 部品なく車動かず コロナで麻痺する経済の実態は (2020-12-14)
- <北朝鮮>10月の対中貿易が前年比99%減の衝撃 その詳細を検討する 無理なコロナ対策で壊滅的打撃 (2020-12-04)
- 「愛の不時着」は北朝鮮でも流行るか 越境する韓ドラに心揺さぶられた北の人々 (2020-11-30)