◆連日連夜の残業の保健所職員 残業100時間超の人も
〈正月休み明けからものすごい数の電話。そこに連日二けたの陽性者の発生届があり、休む間もなく残業が続いている。宿泊療養ホテルに入院先もすぐには調整がつかず、対応に時間がかかる〉
〈過去最多560人の陽性者。23時過ぎ、何とか終電のあるうちに職場を出て帰路につく。深夜3時前布団に入った頃、入院調整の電話が入り対応。終わったのは4時前。朝からは本来業務の訪問の予定があり休めない〉
コロナに関する保健所の業務は、感染の疑いがある人からの電話相談をはじめ、PCR検査の受け付け、陽性と診断された人の入院や宿泊療養、あるいは自宅療養の調整、感染者の感染経路や濃厚接触者を調査する「積極的疫学調査」、症状が急変した人への対応など、多岐にわたっている。
「昨年4月以降、保健師や保健所の職員は連日連夜の残業で、多い人は毎月100時間を超えており、『過酷』『悲惨』です。深夜であろうが急変や差し迫った相談の電話が入ると、自宅から駆けつけます。気がつくと子どもが学校へ行っていなかったという人もいました。それでも過労死ラインを超えて残業している職員を見ていると、子どもを残してでも役立ちたいと頑張っているのです」
小松さんはこうも訴える。「コロナ前から保健師の数は足りていませんでした」。
保健所の日常業務は、結核や新型インフルエンザなどの疾病・感染症対策はもちろん、難病患者や精神疾患のある人たちへの支援、障害や病気の子どもを抱える家庭の育児支援、飲食店の許認可に食中毒の調査など幅広い。「今から自殺します」という電話にも対応する。
◆「行政改革」で保健所削減、大阪市は24→たった1か所に
なぜ保健師が足りないのか。小松さんは「行政改革で、保健所の統廃合と人員削減が進められたため」と説明する。
「1994年に保健所法が廃止され、地域保健法の改正を経て、全国で852カ所あった保健所は20年後には半減しました。『公務員は少ない方がいい』とか、『スリムな行政組織がいい』という風潮が保健所削減の追い風となったのです」
大阪府では現在、府が設置する保健所は9カ所、約500人の職員が働いている。政令指定都市や中核市に設置している9カ所と合わせて18カ所あるが、2000年と比べると3分の1に減少した。とりわけ、24カ所あった大阪市の保健所は1カ所しかない。
◆維新府政の「職員基本条例」で職員数が全国最低水準に
さらに、保健師削減を加速させたのが、橋下徹市長と松井一郎知事時代の12年に制定された「職員基本条例」だった。職員数の管理目標を5年ごとに決定することで職員を減らしていく。1995年に1万7000人だった職員数は8500人と25年間で半減、人口10万人あたりの職員数も全国最低水準になった。しかも、コロナ禍などの緊急時でも職員定数を増やせない仕組みになっているという。
「労組ではこれまでも保健所や職員を増やしてほしいと訴えてきましたが、府から返ってくる答えは『条例で決まっている』『府民の理解が得られない』というものでした。それでも、私たちが声を上げないと、救える命も救えなくなると思い、オンライン署名に取り組みました」という小松さんはこうも言い添える。「保健所だけでなく、公務全体の職員が削減されるということは、確実にそのしわ寄せが住民に向かいます。私たちの労働条件がどうのという問題だけではなく、支援を必要とする人に手が届かなくなることを危惧しています」
日常業務に加えてのコロナ対応で、他の部署から一時的な応援や派遣社員が投入されたが、高い専門知識と経験が必要とされるため、過酷な労働環境は改善されていない。
神奈川県では、濃厚接触者を特定するための追跡調査を取りやめて、陽性患者への対応を優先させざるを得ないという。感染経路を追い切れず、濃厚接触者のPCR検査などが徹底できなければ、全国各地で感染爆発が多発しかねない。
大阪府職労は1月15日、6万1143人分の署名を吉村知事と田村憲久厚労相に提出した。さらに上積みし、2月中旬にも最終分として提出する予定だという。