2015年11月の総選挙前、ヤンゴン市内の自宅敷地内で記者会見を開いたときの国民民主連盟(NLD)党首アウンサンスーチー氏。(2015年11月5日ヤンゴン・赤津陽治撮影)

◆国軍に大きな権限を保証する現行憲法

2月1日、ミャンマー国軍は突如、立法・行政・司法の全権を掌握したと発表した。アウンサンスーチー国家顧問とウィンミィン大統領を拘束したのち、軍人出身のミィンスウェ第1副大統領が暫定大統領として国家非常事態を宣言(憲法第417条)。ミンアウンフライン国軍総司令官に立法・行政・司法の全権を委譲した(憲法第418条A項)。(赤津陽治・アジアプレス)

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国軍は先月26日に記者会見を開き、総選挙で有権者の4分の1に相当する1000万票以上に不正票の疑いがあったとして、問題の解決が必要であると訴えていた。

会見の中で、「国軍として全権を掌握することはないと考えてよいか」との質問があった際、国軍報道官のゾーミントゥン准将は大きく首を振り、「(そう考えることは)できない。国軍は憲法を含む現行法に則って行動していく」と答えた。

2015年11月の総選挙の投票所。国民民主連盟(NLD)が圧勝し、NLD政権が誕生した。(2015年11月8日ヤンゴン・赤津陽治撮影)

今回のクーデターで、国軍は憲法を破棄することなく憲法に則って全権を掌握したと主張した。2008年に軍事政権によって制定された現行憲法は、国軍に大きな権限を保証しており、非民主的な憲法として知られる。その理由の一つが、国家非常事態時に国軍総司令官の合法的な全権掌握を認めている点だった。

ミィンスウェ副大統領は、暫定大統領という肩書で、
「2020年11月8日に行われた総選挙での有権者名簿問題の解決を連邦選挙管理委員会が怠ったこと、有権者名簿に大きな誤りがあり、民主主義制度の安定と国家主権は国民に由来する点に反していること、有権者名簿の問題を解決することを拒否し措置を講じなかったこと、議会延期の要請にも応じず予定通りに議会を招集したことは、憲法第417条にある国家主権を強奪する行為であり、民族の結束を崩壊させるものである。その行為が連邦選挙管理員会への不信を生じさせ、ミャンマー各地でデモが頻発しており、それを支持する他の政党組織の者たちによるさまざまな動きが見られ、国の安定を大きく脅かしている。この問題を正しく解決しなければ、民主化の進展に大きな支障を生じさせるため、憲法第417条に基づき、国家非常事態を宣言する」
という内容の大統領令を出した。
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