◆国軍に大きな権限
連邦議会は、上院と下院を合わせて664議席だが、166議席は最初から国軍に割り当てられている。残りの4分の3にあたる498議席のみが選挙で国民によって選ばれる。ミャンマーの人口は約6000万人。単純計算すれば、国民12万人で1議席となる。国軍の総員数約50万人で166議席を確保しているとすると、軍人3000人で1議席の計算となる。または、国軍総司令官たった1人で166議席を保有しているともいえる。
そして、国軍総司令官は、国防治安評議会の承認を受けて、大統領が任命すると規定がある(第342条)が、国防治安評議会は国軍の意向が通るように構成されており、結局は国軍総司令官が国軍総司令官を決めることになり、国民の意向が反映されようがない構造になっている。
「国軍は私たち国民から奪った権力を永久に返したくないために2008年憲法を起草し、合法的に握り続けようとしている。それを取り戻すためには、どうすべきか。国内外にいるミャンマー人皆が考えなければならない」と訴えた。そして、「この国の主権者は私たち国民だ。私たちは彼らに分かるように自分たちの意思を明確に伝えなければならない」とコーニー弁護士は語っていた。
◆クーデターは権力が浸食されているという国軍の危機感からか
その後の2015年の総選挙で国民は明確に意思を示し、NLDが圧勝した。そして、2020年の総選挙でも国民は同様に意思を示した。一方で、元国軍軍人で構成される連邦団結発展党は、前回よりもさらに議席を減らし、連邦議会で33議席しか得られなかった。
そうした状況を国軍は受け入れられなかった。国軍は、議会で四分の一の議席を確保しているものの、憲法改正の拒否権を行使できる程度で、政権を担って自由に権力を行使することはできない。握り続けてきたはずの権力が少しずつ浸食されてきたという危機感があったのかもしれない。
国軍のクーデターに対する、現在のミャンマーの人びとの行動は、かつてのコーニー弁護士の呼び掛けに呼応しているように思える。コロナ禍で外出自粛すべき時期に、大勢で抗議デモを行なうことは、それだけでも命がけの行為だ。多くの人びとが、新型コロナに感染するよりも、軍事独裁体制下に生きることの方が危険だと認識しているのだ。
ミャンマーは、長い間、自由のない暗黒の時代が続いた。2015年の総選挙でNLDが勝利し、ようやく人びとは自由を安心して謳歌できるようになった。
あのときに現地で感じた国全体を包み込んだ空気を私自身も忘れることができない。恐怖から解放されたという解放感、ついに平和が訪れたという安堵感のようなものを感じた。一度自由を味わった人びとの抵抗は、簡単に封じられることはないだろう。以前のミャンマーを国民は望んでいないのだ。