◆銃撃され死亡する事件発生か
脱北しようとする人を実弾で射撃する事件も発生している模様だ。
豆満江側の国境に位置する咸鏡北道の茂山(ムサン)郡に住むB氏は、「1月31日に、中国に逃げようとして国境警備隊に撃たれて死亡する事件があった」と伝えてきた。やはり失敗して逮捕された時に自殺するためにアヘンを所持していたという。
銃声が聞こえるようになったという証言は、対岸の中国からも伝わってきている。恵山市の対岸、吉林省長白県の中国人の取材協力者は次のように述べる。
「最近は夜になるとちょくちょく北朝鮮側から銃声が聞こえる。中国側でも密輸と越境に対する警戒が強まっていて、警備隊が検問所を増やし巡察も頻繁だ。北朝鮮は『コロナ感染者ゼロ』と宣伝しているが、こちらではそんなはずはないと考えていて、北朝鮮からコロナが入って来るのを警戒して警備が厳しくなっている」
実は、中国への越境に対して発砲することを、北朝鮮当局は公式に宣言していた。2020年8月末、警察当局名義で「国境に接近する者は無条件に射撃」する旨の布告を出したのだ。そこには国境地域一帯で夜間通行禁止措置を取ることも明記された。3月まで18時以降の外出が禁止になっている。
◆脱北と自殺増加で住民に対策指示
A氏は中国に逃亡を図る人が増加しているという情報を個人的に収集しただけではなかった。当局が逃亡の可能性のある者を把握して当局に申告するよう住民に指示を出したのだ。その中で、具体的な逃亡事件についての説明があったという。A氏は次のように説明する。
「1月18日に、中国への越境を阻止するための人民班会議がわざわざ開かれた。急にお金をたくさん使うようになった人、近隣の人と付き合わなくなった人、商売を理由に外出が多い人、引越しをしようとする人、多くの借金を抱えて苦しんでいる人たちを、当局に申告をしろという内容だった。人民班長は『借金の取り立てに苦しんで逃亡や自殺を図る人たちがいるので、疑わしい者を関係機関に申告しなければならない』と説明した」
実際、暮らしの急悪化で借金する人が増えた。「最近の借金の金取り立ては本当に恐ろしい。家に押しかけて、家財を釜にいたるまで全部持って行って行く。そこまで追い詰められたら脱北や自殺を考えるのも無理はない」とA氏は言う。
当局は脱北、自殺の防ぐと訴えながらも、「借金もほどほどにせよ」と指示するのが関の山なのだという。
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