◆規制の抜け穴今後も放置か
「経営からすれば安くなりますからありがたいけど、労働者にアスベストを吸わせることになる。そんないい加減なことはできません」と明言する除去業者もいた。
都道府県などがアスベストを含む飛散しやすい廃棄物について「廃石綿等」としての処分を「お願い」してきたほか、最終処分場も粉状でアスベストが含まれるものは飛散リスクがあるとして石綿含有廃棄物(一廃・産廃)としての受け入れを拒否する実態もある。つまり法規制ではなく現場で働く人びとの良心により、仕上塗材の除去で発生する廃棄物すべてを「廃石綿等」とする、安全側に立った上乗せ対応が続けられてきた。
環境省もこうした状況は認識しており、廃棄物規制課が2019年度に実施した委託調査で「石綿を含む塗材除去においては、現在、各工法ともに発生する廃棄物は廃石綿として処理されている」と報告されている。
ところが、一部の業界団体や事業者から「飛散しないもの(汚泥や湿潤状態のもの)や石綿がほとんど含有されないもの(剥離剤併用工法の塗膜等)については廃石綿の扱いでなくてもよいのではないか」と意見が出た。それで同省は今年度に飛散実験を含め改めて委託調査を実施。その結果をふまえて関連する政省令の改正が必要か判断することにしたのだという。
すでに4月の規制緩和まで半月を切ったが、同省廃棄物規制課は「年度内に検討会をして議論しようとしておるところ。事務局的な方針は考えておりますが、検討会前ですので確定した方針は出せていない」という情けない状況。散々時間はあったにもかかわらず、いまから年度内に非公開の検討会を1回開催して方針を決めたいというのだから呆れるほかない。
かねて担当課は政省令改正が「必要ないかもしれない」と筆者の取材に明かしており、「解釈の範ちゅうで形にするということはあるかもしれない」と認める。通知でごまかす可能性があるわけだ。
その場合、仕上塗材など新たな区分とされる建材をはじめ、成形板などを粉々にしたものなどは「廃石綿等」から結局除外されるとの問題が残る。
たとえば今回の規制改正で、天井や内壁材として使われる「けい酸カルシウム板第1種」について破砕撤去する場合、現場をプラスチックシートで密閉に近い状況に隔離することに加えて常時湿潤化するとの規制強化が行われており、石綿則で2020年10月に施行済み。大防法で今年4月施行となる。けい酸カルシウム板第1種は飛散性が高いうえ、発がん性の高いアモサイト(茶石綿)を含むことも多く、吹き付けアスベストに近い高濃度飛散を引き起こすことがかねて問題視されてきた。そのため諸外国よりいい加減ながら、今回若干規制強化された。この際に発生する廃棄物も解釈変更だけでは「石綿含有廃棄物」のままだ。
もともと2005年の廃掃法改正が不十分で廃石綿等が吹き付けアスベストなどごく一部の除去に限定されたことに問題がある。その結果、成形板などの除去で粉々にすりつぶそうがその作業で使ったアスベストだらけのマスクフィルターだろうが「廃石綿等」の定義から除外されてきた。こうした規制の抜け穴を今後も放置するのか。
さらにいえば、粉状にしたアスベスト建材がふつうの産廃同然の扱いとなっている日本の状況は先進国では異常というほかない。処分場のひっ迫状況から、おそらく廃石綿等の扱いを極力減らす判断をするのではないか。
1回の検討会で結論が出なかったり関連する政省令改正に踏み切る場合、4月の法施行に間に合わず、「当面は現在のまま対応していただくことになるかもしれない」(同課)という。
現場の良心により守られてきた仕上塗材などの飛散防止や廃棄物の上乗せ処理を環境省は踏みにじるのか。検討会でどのような結論が出されるのか注目される。
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