大阪府PTA協議会がこの3月の小中学校の卒業式に流す動画メッセージを、学校設置者でもない吉村洋文大阪知事に依頼していたことが、市民からの情報提供や、大阪府教育庁(以下、教育庁)への情報公開請求などで分かった。また卒業式で「吉村動画」を流す企画を持ち込んだのは、維新の府議会議員だったことも明らかになった。専門家は「教育現場に政治を持ち込むことになる」と問題を指摘する。(鈴木祐太/フロントラインプレス)

小中学校の設置者でもないのに卒業式に動画メッセージを送った吉村知事は日本維新の会の副代表。(メッセージ動画より)

 

◆動画作成の目的

大阪府PTA協議会(以下、PTA協議会)は2月8日付で「卒業祝サプライズメッセージ動画の提供および活用のお願い」と称する文書を大阪府下の「各小中学校・義務教育学校」宛に送った。文書には、動画のダウンロード方法などとともに、コロナ渦でいろいろな苦労を強いられた卒業生である小学校6年生、中学校3年生に対して吉村知事のサプライズメッセージを提供し、子どもたちに何かワクワクドキドキを感じてほしいと、動画を作成した狙いが説明されていた。

PTA協議会に対して動画作成の目的を質問したところ、次のような回答があった。

「コロナ渦で学校教育活動に多くの影響が出て子どもたちは窮屈さや不安を抱え時には我慢を強いられることも多い年となっています。そこで子供たちを少しでも盛り上げたいと思い、著名な方からのサプライズメッセージを考え役員会で企画、実行した」

大阪に著名人は大勢いる。なぜ維新の政治家・吉村洋文氏なのか?

卒業式で流す「PTA協議会による吉村ビデオ」企画を持ち込んだのは大阪維新の会の三橋弘幸府議。維新による政治宣伝の意図を疑わせる。(大阪府教育庁の文書より)

 

◆吉村知事は学校設置者ではないのに…

公立小中学校の「設置者」は市町村であり、吉村大阪府知事は「設置者」ではない。つまり大阪市立小中学校の場合、設置者は松井一郎大阪市長であって、吉村知事ではないのだ。

なぜ、卒業式のサプライズ動画メッセージに、わざわざ政治家である吉村知事を選んだのか?

PTA協議会からは「スポーツ選手、お笑い芸人、俳優、歌手などの候補者から、子どもたちに共通した誰もが知る著名な人物で大阪府における新型コロナウイルス対策のリーダーという観点から吉村知事の名前が出た」と回答があった。

これに回答ついて、龍谷大学法学部の丹羽徹教授は次のように疑問を呈す。
「PTA協議会が仮に誰かにメッセージをお願いすることが適当であったとしても、なぜ吉村知事なのかが理解できません。『頑張っている』からのようですが、政治家・公職者としてコロナ対応するのは当たり前で、彼だけが頑張っているわけではありません。

仮に彼だけが頑張っているとのメッセージであるならば、吉村知事を応援しているというメッセージとなり、教育現場に政治を持ち込むことになります。サプライズという表現には違和感を持ちます。インパクトをもって『吉村知事」を印象付けるという意図はなかったのでしょうか」

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