■ 5回も人質? デマとフェイク情報が拡散
もう一つ安田さんを悩ませているのは、「シリアで解放された時に政府は密かに身代金を払った」「イラクなどで5回も人質になっている」などのフェイク情報の拡散だ。
身代金の支払いについては、当時の安倍政権も否定している上、どこにもまったく根拠を探せない怪情報に過ぎない。
「5回も人質」もデマだ。2004年に安田さんがイラク取材中に武装勢力に一時拘束されたのは事実だが、ジャーナリストを装ったスパイではないかと疑われたもので、疑いが晴れて間もなく解放されている。イラクの軍と警察に一時拘束されたのも同様の理由だが、調べを受けて2~3時間で放免されている。職務質問程度のもので「人質」ではない。
[参考] 安田純平 16年経っても消えぬデマが示す「事実に対する誠意と倫理観」が揺らぐ
紛争地や強権国家での取材では、政権や支配勢力による一時的な拘束や取り調べは当たり前のようににある。例えば中国。マスメディアの特派員でも一時的に拘束されるような経験は誰でもしているはずだ。私も中国と北朝鮮で合わせて十数回一時拘束され取り調べを受けたことがある。2月26日にはミャンマー在住の日本人ジャーナリストの北角裕樹さんが取材中に警察に拘束されている。この程度のことで非難されるのであれば、新聞、テレビの記者、フリーランスジャーナリストも、紛争地や強権国家の取材はできなくなってしまう。
どこで、何をテーマに取材をするのかは報道機関とジャーナリストが決めることであって、政府が統制することではない。安田さんに対する旅券発給拒否は、報道、取材の自由に対する介入であり、マスメディアにとっても他人事ではいられないはずなのだが、きわめて反応が鈍い。
菅政権は、今からでも旅券発給拒否を撤回すべきた。連帯の声を上げていきたい。
※安田さんが国を訴えた「旅券発給拒否」訴訟の第5回口頭弁論は、4月13日午前10時30分から東京地裁703号法廷で行われる。
[参考] 安田さん旅券発給拒否事件の詳細 「ジャーナリストに渡航の自由を!訴訟」
※ 特集【シリア・イラク】湯川遥菜さん・後藤健二さん殺害事件~追悼と論考(アジアプレス)