◆「クリティカル・フレンド」(批判もする友人)
英語で「クリティカル・フレンド」(批判もする友人)という言葉がある。大事な友人が何か危険なことをして傷つきそうなときには警告する友人のことだ。特別報告者はそういうクリティカル・フレンドとして日本だけでなく多くの国に勧告を与えてきた。
連載1から見るfa-arrow-circle-right問題だらけの入管法改定案―政府は国連特別報告者からなぜ逃げるのか(1)国連共同書簡と筋違いな政府の反論
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忠告してくれる友人に対して「私は悪くない、お前がおかしいのだ」という人がいたらどう思うだろうか? そういう人は、そのうち誰からも相手にされなくなるのではないだろうか? それは大変未熟に見えるが、残念ながら日本政府はそういう態度を続けているように思われる。
本来なら忠告に対して、「ありがとう」と受け入れ、改善に努めるのが成熟した態度といえるだろう。多くの先進国は特別報告者の勧告にきちんと対応し、勧告に従い改善し、建設的な対話を行っている。
例えば、2020年11月、フランス政府に対し、表現の自由や、集会の自由に関する分野などの5人の特別報告者が治安対策法案への強い懸念を示す8ページにわたる書簡を発表した。(注1)これはメディアでも大きく取り上げられ、フランス政府は法案の一部を改正する、とした。(注2)
また、2015年にはイギリスの捜査権限法案に対し、プライバシーの権利に関する特別報告者が「ジョージ・オーウェルが『1984』で想像した全体主義ディストピアの何よりもひどい。」と厳しく批判し、それをメディアも大きく報じた。(注3)そして、イギリス政府は法案の一部を改正したのだ。2020年、ブラジル政府は問題の多い「フェイクニュース対策法案」の審議に際し、特別報告者を国会に招待し、意見を求めたいと依頼した。
特別報告者は、このような政府の依頼があれば、法案や制度をよりよくするために喜んで助言する。これらは他国の国連人権専門家との「建設的対話」のほんの一例だ。
◆国際社会では通用しない日本政府の対応
そういう中で、日本政府の対応は悪い意味で目立っているようだ。日本政府が国連人権勧告を真摯に受け止めていないことは、国連人権専門家の間では広く知られている。例えば、2014年の自由権規約の日本報告書審査の時に、ナイジェル・ロドリー議長ははっきりと「日本は何度同じ勧告を出されても従おうとしない。日本政府は国際社会に対して反抗しているように見える」とまで言っている。
また、書面でも対面の審議でも、国連人権専門家から聞かれている質問に対して、言葉を並べるだけできちんと答えない、という態度も見受けられる。そういう方法で国内では対応しているのかもしれないが、国際社会では通用しない。先ほどの自由権規約の審査の時には、日本政府代表団のそのような対応に、委員が「これでは時間の無駄だ」といら立ちを見せて審議が中断し、「翌日出直してくるように」といわれている。こういう態度は日本の国際的な評価を下げ、人権理事会の理事国としての信頼を失うことになるだろう。
今回は入管法改定案への懸念を表明する共同書簡が送られているのだから、政府は特別報告者から与えられた質問に対してきちんと建設的対話を行い、それを市民にも公開すべきだ。それをせずに国会で審議を進めて採決、などということはあってはいけない。
◆ディフェンス終始は「建設的対話」ではない
4月21日の国会では、赤堀政府参考人が「わが国は、国際人権諸条約や難民条約の締約国として、条約が定める義務を誠実に履行してきており、我が国の制度がそれらに違反しているということは考えておりません」とのべた。
つまり、これまでさんざん国際人権基準からみた問題を国連人権機関から指摘されて勧告を受けてきたが、そういう指摘がされるのは国連の「筋金入りの専門家」たちが間違っているからだ、と解釈しているということだろう。
さらに赤堀政府参考人は「引き続き、関係省庁と連携して、特別報告者に対して、日本政府の立場を、考えをしっかり説明していきたい」 「今後とも、丁寧に説明し、正確な理解を促進することが重要と考えて」いると、国連勧告に対する毎回の政府の答弁を繰り返した。
ここで彼が言っている「正確な理解の促進」とは、日本の人権基準の解釈を相手にわからせようとすることらしい。その解釈とは国際人権法を正しく理解したものではないはずだ。正しく理解していないからこそ、再三の勧告にもかかわらず「条約違反はしていない」といえるのだろう。
このように、日本政府は特別報告者など国連人権専門家からの勧告や問題指摘を、まるで「攻撃」でもあるかのようにとらえてディフェンスに終始し、自らの考えで相手を説き伏せようとしているかのようだ。
これは「建設的対話」ではない。先に見た他国の例のように、まずは指摘に耳を傾ける必要がある。勧告を真摯に受け入れ、それに基づき必要な改善はしようという態度が必要だ。結論ありきで、「聞くふり」をするだけではダメなのだ。
「人権」とは、それがなくては人間が人間らしく生きることができないものだ。その実現のために政府は義務を負っている。そして、その義務の内容を具体的に規定しているのが国際人権条約なのだ。 特別報告者の勧告とは、国連加盟国がその国内法や制度を国際人権基準に見合ったものにするのを助けるものだ。ぜひ、日本政府には勧告に真摯に向き合う成熟さを見せていただきたい。
また、メディアも日本が国際的にどう評価されているか、という事実をもっと国民に知らせ、政府の国連人権勧告への態度をモニターし、真のジャーナリズムの精神に基づいた報道をしてほしいと思う。了 (藤田早苗 エセックス大学ヒューマンライツ・センター
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注1 特別報告者の書簡/仏文
注2 ・ルモンドの記事 2020年11月16日
・追加の国連プレスリリース
注3 ガーディアンの記事 2015年8月24日
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藤田早苗(ふじた・さなえ)
エセックス大学人権センターフェロー。同大学にて国際人権法修士号、博士号取得。名古屋大学大学院修了。秘密保護法、報道の自由、共謀罪等の問題を国連に情報提供、表現の自由特別報告者日本調査訪問実現に尽力。
※訂正します。
「プライバシーの権利に関する特別報告者が「これは恐ろしいよりもひどい」と厳しく批判し」 を、「プライバシーの権利に関する特別報告者が「ジョージ・オーウェルが『1984』で想像した全体主義ディストピアの何よりもひどい。」と厳しく批判し」に訂正しました。(2022/8/18)
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