◆人員不足の農村、炭鉱に配置進める
朝鮮人民軍の服務期間(兵役期間)が、男子13年から8年に、女子は8年から5年に短縮されたことが、北部地域に住む複数の取材協力者の調査で分かった。1月に開催された労働党大会を経て決定されたもので、人手不足により生産に支障が出ている農業、鉱業などの分野に若い人員を振り向けるのが目的だと見られる。取材協力者は、3月後半に国防省の隊列補充局傘下の兵役事務を扱う部署「軍事動員部」の担当者に会って確認した。また息子を今春入隊させる複数の親から聞き取りした。(カン・ジウォン/石丸次郎)
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国内の協力者が取材したある道の「軍事動員部」指導員によれば、国家プロジェクトの建設と農村、鉱山、炭鉱で人員が恒常的に不足しているため、1月の党大会後に服務期間短縮が決定された。一方で、「これは公式の制度変更ではなく、来年も同様に男子8年、女子5年になるかは分からないと指導員は答えた」という。
この措置に伴い、8年以上服務してきた兵士たちは除隊することになったが、歩兵部隊などの一般の兵種が中心で、特殊な部隊や兵種はそのまま軍に残るとのことだった。
韓国の国家情報院は2月16日の国会情報委員会で、北朝鮮当局が党大会後に9~10年だった男子の兵役期間を7~8年に、女子は6~7年から5年に短縮したと報告している。
北朝鮮には固定した兵役期間はなく、年によって1~3年の変化がある。アジアプレスの調査では、男子の場合2000年代半ばから10年前後で推移していたが、2014年に11年に延長され、一昨年からは13年になっていた。男子は実質的に徴兵制を敷いている。
◆大飢饉で入隊者激減
男子は義務教育の高級中学(高校に相当)卒業時の満17歳から25歳までに入隊することが「朝鮮民主主義人民共和国軍事服務法」によって定められている。女子は「18歳までに入隊できる」と定められた志願制だ。
特に服務期間の定めはなく、「国家は軍種別、兵種別、または服務条件に応じて軍事服務年限を別に定めることができる」としている。情勢に応じて国の裁量で服務期間を決めることができるわけだ。昨年入隊の新兵は、大学進学者を除いて男子13年、女子8年と期間が設定され入隊した。
若者の多くは、青春のほとんどの時間を兵営で送らなければならない。この過酷な超長期の軍服務には理由がある。
北朝鮮では1990年代中盤からの大飢饉で200万人ともいわれる人が死亡。この時期に出生し生き残った「飢餓世代」が入隊年齢に達した2000年代半ばから、新兵の補充ががくんと減り、部隊編成にまで支障が生じる事態になった。当局は女子の軍入隊を強く推進するとともに、8~10年程度だった男子の服務期間を延ばした。
※北朝鮮の兵員数は、2019年版の防衛白書によれば約110万人。人口の5%近い大兵力だが、実際にはもっと少ないと見られる。