◆政治アナリスト「独裁者ネウィン時代の組織形態に回帰か」
ミャンマーの情報機関について詳しい政治アナリストのコ・ザン氏(35歳)は、「既存の機関を統合して、効果的に情報を収集することが目的だろう。緊急の必要性から暫定的に設置された組織かもしれないが、本格的な組織になるとすれば、かつての独裁者ネウィンが支配した時代のような組織になるのではないか。最高権力者だったタンシュエ議長が2004年に解体したNIBをそのまま復活させることを国軍幹部たちは躊躇するはず。内務大臣が強い権限を持ち、国軍諜報機関が実務の中心を担う一昔前の形態をとるだろう」と語る。
◆安全保障に関わる機密のため? 国営新聞・国軍系新聞では公表されず
NSB設置については、国家統治評議会命令2021年第41号と2021年第42号として2月9日付けで出されたものだが、情報省が発行する国営新聞「ミャンマー・アリン」と「チェーモン」には掲載されていない。国軍系新聞の「ミャワディ」にも掲載されていない。
唯一、連邦法務長官府(日本の検察庁・法制局に相当)が運営する法律データベース「Myanmar Law Information System(MLIS)」上にのみ掲載されている。MLISは韓国政府の援助で整備され、2018年から運用されているミャンマー初の法律データベース。ミャンマーの法令のほぼすべてが所収されているが、2月1日のクーデター後に出された法令については、一部未収録のものもある。
これまでに国軍側の最高意思決定機関である国家統治評議会の命令は4月23日現在、第116号まで出されている。命令第1号から第40号まではすべて翌日の国営紙に掲載されたが、第41号と第42号は、MLIS上に掲載されたのみで、国営新聞や国軍系新聞、国軍総司令官ホームページ上では確認できなかった。一部の命令(例えば、国家統治評議会命令2021年第44号、第45号)については、MLIS上でも、国営新聞、国軍系の新聞・ホームページなど、どこを探してみても全く見つけられないものもある。公表されていないのは、クーデター後の混乱のためなのか、国家の安全保障に関わる機密性の高い内容のためなのか、真相は不明だ。
ビルマ政治囚支援協会(AAPP)の調べによると、クーデター後に拘束され、釈放されていない者は現在約3500人にのぼる。一部の者は、拘束後に受けたと思われる拷問によって顔が腫れあがり、変わり果てた姿で国営新聞に写真が掲載された。連行された翌日に遺体となって戻ってきた者もいる。国家保安局(NSB)の設置で、抵抗運動への弾圧が今後さらに強まることが懸念される。