北朝鮮住民の苦境が増している。新型コロナウイルスの流入を遮断するために2020年1月末に国境を封鎖して物と人の往来をほぼ完全に止め、厳格な移動統制と「疑わしきは隔離」という強引な防疫対策を取った。国内でコロナの感染拡大は防げたが、物資不足と経済活動の沈滞で生活悪化は酷い状況だ。中国から薬品輸入が止まって治療できずに亡くなる人が各地で続出、現金収入を失った脆弱層の中には餓死する人も出ている。
経済苦境のしわ寄せは女性に向いている。「現金収入を求めて覚醒剤の売人になったり、売春をしたりする女性が大勢いる」と、私の北朝鮮各地の取材パートナーたちが伝えて来ていた。そして今、闇の妊娠中絶が急増しているという。
筆者は5月中旬、北朝鮮国内に住む複数の取材協力者に依頼して非合法の妊娠中絶の実態について調べてもらった。以下は調査したAさんとの一問一答だ。Aさんは北部地域に住む30代の既婚女性で、公設市場で商売をして家計を支えている。彼女との連絡には、搬入してある中国の携帯電話を使用している。
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◆生活苦で子供を生めなくなった
A 住民は、皆がぎりぎりの暮しをしています。一年以上コロナ統制が続き、人々は結婚どころではないし、子供を生む家族が本当に少なくなったと感じます。コロナが収束して暮しが元に戻ってからにしようという考えなんです。コロナ以前から二人目は生まないという夫婦が大半でしたが、子供はいらないという若い夫婦も多いです。
――中絶手術が増えているのはなぜですか?
A 避妊をちゃんとしないからですが、一番の理由は、わが国に避妊器具がまともにないからです。以前は病院で女性に避妊手術をしましたが、今は(コロナで)国境が封鎖されて避妊器具も薬も中国から入って来ないんです。
――コンドームは使用しないんですか? なぜ避妊がおろそかなのですか?
A 朝鮮では避妊はもっぱら女がするものなんです。「コリ」(女性用避妊リングのこと)を入れる手術をします。大半の男はコンドームなんて触ったことも見たこともないでしょう。男どもは酒を飲むと何も考えなしにセックスしようとするから、女性だけが苦労するのですよ。
◆未婚カップルの「事故」が増えています
――中絶手術は病院ではしてくれないのですか?
A いえ可能です。ただ、どこも薬が不足しているし、長く待たされます。病院でも医師にお金を払わないとしてくれません。私の知人は2人目の妊娠だったのですが、コロナで生活が苦しいから堕したいと病院で頼んでしてもらいました。医師に20~30中国元の心づけを払わないといけません、ただではしてくれないんです。
※1中国元は約17円。
※本来は北朝鮮の医療制度は完全無料だったが、90年代に破綻し現金を払わないと治療を受けられなくなった。
――非合法の闇中絶が増えた理由は?
A 個人の闇の方がちゃんとしてくれる所があるからです。それと、(未婚の)若い女の子の妊娠が増えているんですよ。最近は、若い子たちが「事故」を起こして妊娠することが多いのですが、噂になったり体調が悪くなったりしないよう、親も一緒に行って、個人の家で闇でやります。
※北朝鮮では未婚女性の妊娠を不良、不純だとみなす風潮が強い。病院では未婚女性への避妊手術は受け付けないし、親も頼めない。