◆実例あっても「抜け穴」放置

ところが厚労省化学物質対策課はアスベストを含有する珪藻土製品が流通した際に「製造、販売等国内の最上位にあるものにおいて、適切に回収等の健康障害防止措置が講じられるように新設する」として、「不特定の者に広く流通させる可能性のある製造又は輸入を行う事業者に義務を課すこととしています」と回答。大量に流通させる可能性があるのは「事業者」であり、個人輸入は問題ではないとの見解を示す。

しかし個人で輸入し、アマゾンなどのインターネット通販サイトで販売しているような場合もあろう。こうした場合にアスベストが検出されても報告義務はなく、国も把握できないことになる。

結局、抜け穴を残したまま改正された。

今回の水際対策で厚労省が手本にした消費生活用製品安全法など「製品安全4法」では個人輸入の場合に報告義務を免れる例外規定はない。また実際に個人輸入による違反で自主回収となっている事例もある。

そもそもこの間珪藻土製品から基準超のアスベストを検出した事例に、国による買い取り検査によるものが2件あるが、同省は「輸入した」のが「中国の会社なのか個人か確認できていない」と筆者の取材に答えている。

これら2件による国内流通は「数百個」だったため、「広く流通」ではなかったかもしれない。しかし、個人だからといって輸入数に制限があるわけでもない以上、もっと多く販売されていてもおかしくはない。

同省はこうした「実例」を知りつつ、あえて法の抜け穴を放置したわけだ。

「わざわざ最初から抜け穴を用意しておく意味がわからない。法の公平性からも問題だ」と事業者から不満の声が上がる。

同省は5月17日、建設アスベスト訴訟の最高裁判決で規制権限の不行使について「著しく不合理」と断罪された。翌18日に菅義偉首相が被害者らに謝罪し、「二度と再びこうしたことが起こることがないように、全力で取り組んでまいります」と語った。

今回の石綿則改正も同じ5月18日である。国のトップが被害者らに謝罪し、再発防止を誓った当日、同省は新たなアスベスト規制で抜け穴を知りつつ放置した。これはあまりにも被害者をバカにしているといわざるを得ない。また厚労省の“尻拭い”をした管首相の顔に泥を塗る行為でもあり、首相の面目丸つぶれである。

石綿則は省令のため同省の判断でいつでも改正できる。同省は猛省し、被害者らに改めて謝罪したうえで早急に抜け穴をふさぐ再改正をすべきだろう。

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