6月15日の労働党中央委員会全員会議で、金正恩氏は「人民の食糧状況が緊張している」と述べて食糧事情の悪化を認めつつ、「全国家的な力を農業に総集中するのが切実である」と農業最優先をあらためて指示した。実際、今年の農業はどういう状況にあるのか? アジアプレスでは、北部の複数地域で農繁期の現状を調査した。見えてきたのは、当の農民に飢えが広がり、何もかもが不足する協同農場の現状だった。(カン・ジウォン)
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◆早くも不作の予想が続々
今、北朝鮮は「農村動員」の真っただ中にある。5月中旬から全国の都市住民が協同農場に出向いて、トウモロコシの種まき、田植え、草取りなどの援農作業を行っている。
昨年は新型コロナウイルスの感染拡大を警戒し「農村動員」は縮小されたが、今年は年初から農業最優先の方針のもと、「匙(さじ)を持てる人間はすべて農村に行かなければならないという当局の指示で、都市住民が交替で農村に出向いている」と協力者たちは最近の事情を伝える。
今年の農村動員は、企業所・団体別に担当する農場を割り当てて、構成住民たちが週に2~3回ずつ農村に赴いている。また「通い」だけでなく農場に常駐する者を選抜して、決められた畑を収穫まで担当させる方法も導入された。農場の慢性的な労働力不足はひとまず解消され、農場員にも歓迎ムードだという。
しかし、今年の農業生産は相当悪化するだろうと悲観的な見立てが、早くも協同農場の幹部や住民から出ている。
◆深刻な営農資材と資金の不足
まず深刻なのは営農資材不足だ。肥料、農薬、除草剤、ビニール、車両用の燃料、農機具の部品などがまったく足りないと、調査した協力者たちは異口同音に言う。
北朝鮮の主食のトウモロコシは、「栄養団地」と呼ばれる苗床を作って成長させた後に畑に植えるかえる方式だ。それが4月の段階からうまくいっていないという。
「肥料不足で苗床から芽が出ず、畑に直播きしたが、土の酸性化がひどくて生育が悪い畑が多い」(会寧(フェリョン)市の農場員)
「中国から除草剤が入って来ず、苗床の草取りも一本一本手作業でしている」(普天(ポチョン)郡の農場員)
当局も手をこまねいてばかりではない。国産の肥料や中国から支援肥料を、足りないながらも鉄道で優先運送する措置を取った。しかし、「国産の化学肥料は人糞より劣る」と評判が悪い。
二つ目の困難は資金不足だ。
今年は、都市から来る人員の食事を農場で負担させず、動員に人員を派遣する企業所などに負担させることになった。食糧や副食物は市場で購入するしかないため、組織ごとに「収益金組」を作って、市中での現金調達を担当させたが、コロナ統制による商売大不振のためうまく現金を作れていないという。
資金不足のため、協同農場では農機や車両を動かす燃料が購入できず、国が供給する営農資材も引き取りに行けない有り様だという。「企業所などで、100中国元を出せば農村動員を免除するようにしたが、それでも金が集まらない」(会寧市の農場員)