◆矛盾は考慮されることなく起訴へ
FIRはもう一通存在し、前述のFIRと内容はほぼ同じだが、通報日が3月17日付で、警察署が同氏の地元のナウンチョー郡警察署で作成されたものになっている。これは、FIRが本来、事件が起きた地域の警察署で作成されなければならないためだと思われる。
ラショー市中央警察署作成の書類を添付するかたちで、ナウンチョー郡警察署に事件が引き継がれ、ナウンチョー郡裁判所に3月19日に起訴された。警察が裁判所へ起訴する前に、法務局(日本の検察庁・法制局に相当)による確認が行なわれるが、特に問題とされることなく、第505-A条と第505条a項での起訴が行なわれている。
起訴状を見ると、原告人は、通報者でもある軍事保安部のココルイン大尉。原告人側証人には、同じ軍事保安部の中佐と軍曹、警察情報部(SB)の警察中尉、内務省特別捜査局(BSI)の職員、ラショー市在住の小売業者と消防団員、ラショー市中央警察署の警察中尉が名を連ねている。また、ナウンチョー市中央警察署の警察中尉が主任捜査官となっている。各諜報部門の人員を証人として動員した印象を受ける。
◆実態は違憲の拘禁
裁判は、刑事司法手続きに則っているように見えるが、書類を精査してみると、実際は非常に杜撰なものであり、憲法に違反した恣意的な拘禁が続いているといえる。人民議院副議長でNLD幹部のトゥントゥンヘイン氏の拘束を続けることが目的の訴追であるとしか思えない。公判は現在もラショー刑務所内で、ビデオ会議形式で断続的に行なわれている。
長女で作家のメーダジャンヘイン氏は、「健康上の理由による保釈を申請しているが、認められない。父は高齢なうえ、脳梗塞を2回経験しており、非常に心配だ」と語る。
トゥントゥンヘイン氏の事件は、不当に拘束されている数々の人々の一例にすぎない。ビルマ政治囚支援協会(AAPP)の調べでは、クーデター後に拘束され、未だに解放されずにいる者は5000人以上にのぼる。(了)
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