(参考写真)たばこを片手に列車に乗り込もうとする軍人 。2013年10月に恵山駅にて撮影「ミンドゥルレ」。(アジアプレス)

◆女性に付きまといトラブル頻発

軍隊を今春除隊し農村に配置を受けた元兵士たちの乱暴狼藉が、各所で問題になっている。暴力行為、盗み、秩序違反などが多発し、警察当局も手をこまねくほどだという。咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む取材協力者キム氏(仮名)が7月中旬、ある協同農場を調査した。(カン・ジウォン/石丸次郎

◆ケンカ、盗み…「まるで土匪集団」

「除隊軍人が大勢配置されてきて、そのうち3人が自分の作業班に配置された。男は年配者2人しかいなかったので、男手が増えて大助かりだと思ったが、問題ばかり起こして大変な騒動になっている」

A協同農場を訪れたキム氏に対し、旧知の農場員はこう述べたという。

一番大きなもめ事になっているのは女性問題。除隊した者たちは、8年間の軍服務を終えたばかりの20代中盤から30歳くらいだ。結婚相手を探そうと、出勤もせずに女性に付きまとって、女性の家族ともめ事が絶えないのだという。キム氏の報告は続く。

「喧嘩すると血まみれになるまで殴る。農場の女性たちに悪態をつく。7月初めには酒を飲んで分組長を殴り、安全署(警察署)の取り調べを受けた者もいたが、警察でも手をこまねいているそうだ。まるで土匪集団が来たかのようだと、農場員が嘆いていた」

A農場では、もともと除隊軍人だけで構成した分組を作ろうとしたが、あまりにも問題を引き起こすので諦めて分散させたのだという。
※北朝鮮では地域のならず者集団のことを「土匪のようだ」と言い方をする。

◆兵力削減し労働現場に送った金政権

金正恩政権は、今年1月の労働党大会後に、軍兵員の大幅削減に踏み切った。軍服務(兵役)期間は、2020年が男子は13年だったのが8年に、女子は8年だったのが5年に短縮され、満期に達していた兵士たちが除隊することになった。

これは、人員不足が深刻な重要産業への労働力の振り向けが主目的だった。除隊軍人を集中配置したのは、農村、鉱山、炭鉱、そして国家プロジェクトの建設現場だった。

農村出身者は故郷の農場に戻した。そうでない者は、所属する部隊別、または師団、旅団ごとに一括して配置先を指定して集団配置させた。本人の希望が聞き入れられる余地はなく「無理配置」と呼ばれた。

「『一生をクワやつるはし、シャベルを持って過ごせということか』と、除隊予定者から不満が噴出していた」と、別の取材協力者は述べる。

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