不発弾を処理するホワイトヘルメットの男性隊員。爆撃や砲撃で着弾した不発弾は深刻な問題となっている。住宅地や道路、農地などいたるところに不発弾が見つかる。(シリア北西部・ホワイトヘルメット公表写真)

◆「息子を失った私のような思いをしてほしくない」

救急医療班のアスマ・ハジバクリさん(30)と一家は、ダマスカス南部のヤルムークに暮らしていた。地区が政府軍に包囲され、ドラム缶に爆薬と金属片を詰めた樽(たる)爆弾の攻撃で、6歳の息子が亡くなった。その後、実家があるイドリブに逃れた。

「子ども、女性、高齢者、罪のない人びとが殺されています。1人でも多くの命を救いたいと思い、隊員に志願しました」

ホワイトヘルメット隊員のアスマさん。ダマスカスの反体制派地区に住んでいたが、政府軍の攻撃後、実家のあるイドリブに家族で移った。(2021年4月、同僚隊員撮影)

 

ダマスカスに住んでいた当時、政府軍機の樽爆弾で長男を失った。夫(右)もホワイトヘルメット隊員で元医師。「夫は最初、心配していましたが、今は理解あります」写真は家族とイドリブの遊園地で。(2020年、アスマさん撮影)

 

政府軍やロシア軍の爆撃が市民を殺戮する一方、反体制派の攻撃で犠牲となる住民も出ている。内戦の悲しい現実のなかで、彼女たちはどれほどの不条理な死の現場を見つめてきたことか。

アスマさんは言う。

「市民を攻撃するアサド大統領に怒りを感じます。それでも、もし負傷した政府軍の兵士を見つけたら必ず助けます。どんな人でも息子を失った私のような思いをしてほしくない。その心が伝われば平和は訪れると信じています」

アスマさん(右)は避難民キャンプを中心に活動。「大きくなったら、私もホワイトヘルメットに入りたい」と話す女の子にヘルメットをかぶせてあげてポーズ。(2021年4月、同僚隊員撮影)

 

学校をまわり、子どもたちに啓発活動もおこなう。子どもの被害があいつぐ不発弾など、危険な爆発物には近づかないように教えるなどしている。写真右はアスマさん。(2021年4月、同僚隊員撮影)

 

新型コロナの感染者も出ていて、子供たちにも手洗いやうがいの方法を教えている。(2021年4月、同僚隊員撮影)

 

イドリブは反体制勢力(シャム解放機構、国民解放戦線など)が実効統治する。イドリブ近郊では反体制勢力と、アサド政権シリア政府軍+ロシア軍との対峙が続く。(地図:坂本卓)

 

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2021年5月25日付記事に加筆したものです)

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