新型コロナウイルスの流入を遮断するとして、金正恩政権が中国との国境を封鎖して1年半が過ぎた。
人の往来はほぼ途絶えた。平壌に駐在する外交官と国際機関関係者の多くが撤退した。2021年7月末時点で、国際郵便も完全にストップしたままだ。1400キロに及ぶ朝中国境一帯は厳戒状態で、越境・脱北することは不可能。国内の状況を知る確かな情報ラインはすっかり細ってしまった。
筆者は北朝鮮国内に中国の携帯電話を搬入して取材協力者たちと連絡を取り合ってきた。だが彼・彼女らも国内移動が思うに任せなくなり、居住地以外の事情は把握が難しくなっている。
今、困窮した都市脆弱層には餓死する人まで出ている。死角地帯となってしまった北朝鮮の内部はどうなっているのか? その一端を探るべく、2021年7月中旬、中国在住の取材パートナーが朝中国境の鴨緑江下流一帯を取材した。中国側から超望遠レンズで撮影した平安北道(ピョンアンプクド)の様子を2回に分けて報告する。
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◆消えた住民の姿 厳戒の国境は軍人だらけ
遼寧省丹東市の対岸は平安北道の新義州(シニジュ)市。国際連絡橋の周辺は中国の観光船が運行中だ。撮影者はまず船に乗って北朝鮮に近づいた。
「北朝鮮側には兵士以外ほとんど人影が見えない。コロナ以前は荷役作業、釣り、散歩をする人が当たり前に見えたのに。操業する北朝鮮船も川にはなかった」
北朝鮮当局はコロナ以前から国境河川の鴨緑江と豆満江への住民の接近を統制してきたが、コロナ発生以降は厳戒態勢を敷いている。河川への接近を全面禁止し、国境警備隊に加え、朝鮮人民軍部隊などから選抜した兵士で編成される特別部隊、通称「暴風軍団」を配置し、検問を強化した。
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警備強化は、流れ着くゴミや密輸を通じて悪性ウイルスが流入するのを防ぐためだとしている。昨年8月には社会安全省(警察)名義で、国境地帯を緩衝地帯にし、許可なく接近する者は無条件に射撃するという布告まで出している。
だが目的はそれだけではない。過剰なコロナ対策で経済が混乱して、困窮した住民が中国に逃亡するのを防ぐことが主目的の一つなのだ。
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