◆広がる救済の「すき間」と「格差」
これが労災の場合、休業補償は約230万円(給付差額日額8000円の場合)で療養手当の約2倍、通院費や介護補償のための給付もある。亡くなった場合にも遺族補償や就学援護費なども支給され、待遇に大きな差がある。
建設現場でアスベストを吸った労働者の場合、5月の最高裁判決に基づく新たな給付金制度が導入され、今後労災に加えて国の賠償金と同等の550万~1300万円が支払われることになる。国に賠償責任があるため当然なのだが、その結果、建設以外の被害者との間に「救済の格差が広がっている」という。
右田さんらが実施した中皮腫患者へのアンケート調査でも40~50歳代で家計収支が100万円以上減少し、生活が困窮している場合が多かったとして、「働き盛りの世代が所得が大きく減少している現状を如実に表しています」と指摘する。
しかも「すき間なき救済」を掲げて成立したはずの救済制度にもかかわらず、労災認定の時効(死後5年)により、のちにアスベストによる被害とわかっても認定されない事態が起きつつある。これまで「時効救済」として5年ごとの時限措置が講じられ、期限切れのたびに延長されたが2016年3月27日以降は対象外。すでに半年あまり救済の「すき間」が生じている。それ以前に亡くなった場合についても2022年3月27日以降は請求権がなくなってしまう。
一方、肺がんなどの認定基準が労災よりも厳しいなどの問題により、認定数が低く抑えられ、その結果救済のための基金が約800億円だぶついたことから原因企業などの拠出金が引き下げられているのだ。
こうした状況に触れつつ、右田さんは「我々のいのちはそんなに安くない」と述べ、「家族の会」の緊急提言として、(1)一律約10万円(月額)の療養手当などの見直し、(2)治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用、(3)時効救済制度など関係制度の「請求権」延長──を挙げた。
国が「規制権限を適切に行使しなかった」として断罪されたのは今回の建設被害者の訴訟が2度目である。とくに今回国の違法期間は1972年から2004年までと長い。大阪・泉南地域の石綿紡織工場における労働者らが国を訴えた訴訟では1958年から1971年までが違法とされた。