◆行政対応の外部検証なし
老舗のアスベスト除去業者は堺市の主張に「あり得ない」と呆れつつ、こう指摘する。
「ご自宅で年末かなにかに大掃除をして1年間まったく触ってない場所をぞうきんで拭いたらホコリで真っ黒になりますよね。それと同じです。天井裏はいくら成形板で囲い込んでいるといっても実際にはすき間だらけです。むしろ地震で揺れたりして割れたりしないようすき間を設けています。天井裏とその下の室内はそうしたすき間でつながっていて、“呼吸”しています。まして何年もほったらかしで吹き付けアスベストを含むホコリが落ちてないなんてあり得ません」
小規模な補修作業ではあるが、それにより天井裏の吹き付けアスベストが室内に飛散することも「十分考えられます」という。
点検口のふたが欠損していた日置荘小学校では、この教室は学童保育のようなかたちで子どもたちが利用している。その間にアスベストを吸わせてしまっていた可能性がある。しかも補修工事でさらにアスベストを飛散させ、子どもたちの曝露が拡大したこともあり得る。市が4校の当該教室の利用を停止したのは、9月17日である。
それにしても堺市はなぜ危険性のある作業と認識しながら、あえて子どもたちのいる学校で法違反ギリギリの判断によりアスベスト対策をしないのか。それが理解しかねる。環境省も「危ないと思ったら届け出を出して作業基準を守ってほしい」と訴える。
子どものいる場所ではより安全側の判断が必要なのではないかと指摘すると、市教育委員会は「対策を講じるべきだった」と釈明した。
さらにいえば、天井板が欠損・破損していた2校については、石綿則違反の可能性もある。同規則では建物の吹き付けアスベストが「損傷、劣化等によりその粉じんを発散させ、労働者がその粉じんにばく露するおそれがある」場合、除去などの措置を義務づけている(第10条)。さらにそうした場所に労働者が立ち入る場合には防じんマスクの着用などを求めている。
市教育委員会は2校の天井板について、少なくとも5年以上欠損・破損していたことを認めており、測定もないなど管理されずに放置されていた以上、法違反のおそれがあるといわざるを得ない。
市は9月24日に設置した「市立小学校におけるアスベスト含有建築対策チーム」で児童らの健康リスクについて「専門家の意見をふまえ検証します」としている。だが市が外部の専門家に意見を求める程度でごまかすようなことは許されない。
2016年に市の不適正工事で隣接する保育園の園児らの曝露が問題になった際に設置したように適切な専門家による第三者委員会で行政対応も含め徹底検証する必要がある。
ちなみに前回の検証は大阪府などの同様事案と違って健康リスクだけが対象だ。この不適正事案の風化について永藤英機市長も9月30日の会見で触れたが、そもそも行政対応は外部の専門家によって検証されていないのだ。教訓化がきちんとされていない可能性がある。だからこそ同じ問題が何度も起きるのではないか。