アスベスト(石綿)により健康被害を生じた被害者に対し療養手当などを支払う救済制度の抜本改正について、野党4党が「必要」と表明したのに対し与党は回答しなかったことが被害者団体による政党アンケートで明らかになった。(井部正之)
◆6政党が意見表明
衆院選に向けた政党アンケートを実施したのは被害者や家族、遺族でつくる「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」で、10月26日に結果をウェブサイト上に公表した。
アンケートは主要8政党に送り、自由民主党、公明党、立憲民主党、日本共産党、国民民主党、NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で(N裁党)の6政党から回答が得られた。日本維新の会、れいわ新撰組からは期限までに回答がなかったという。
尋ねたのはアスベスト被害者に対し、月額約10万円の療養手当を支給することなどを定めた石綿健康被害救済法の抜本改正についての見解だ。
この救済制度では、子どもを抱えた働き手が中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがん)などを発症した場合に収入が激減し、生活が困難になることをかねて「家族の会」などが指摘している。
15年前に制定された当時国は救済法について「民事上の責任とは切り離し、事業者、国、地方公共団体の全体が費用負担をシェアすることで被害者の迅速な救済を図る」ものだと説明。加害責任に基づく「補償」ではなく、あくまで「救済」だと強調してきた。
しかし、2014年10月には大阪・泉南地域の石綿紡織工場で働く被害者らによる訴訟の最高裁判決で国が敗訴。今年5月には建設現場でアスベストを吸って中皮腫などを発症した被害者らによる訴訟でも最高裁において国と建材メーカーの敗訴した。つまり、国が規制権限を行使しなかったことが「著しく不合理」と二度にわたって最高裁で断じられたのである。そのため国の責任がより重いとして、救済制度の矛盾を解消するとともに「補償」に近づける必要があるとの指摘が専門家から相次ぐ。
また現状はアスベストによる肺がんや石綿肺、びまん性胸膜肥厚では労災よりも厳しい判定基準となっており、認定されない問題がある。さらに労災で時効となった遺族を対象とした給付金について、2016年3月27日以降の死亡者遺族の請求権がなくなっているだけでなく、2022年3月28日以降は被災者の死亡から5年を経過したすべての遺族の請求権がなくなるといった制度の「すき間」も生じている。