◆軍政を信用しなかったカレンゲリラ
2012年、ミャンマー南東部のジャングルで、私は反政府ゲリラ、カレン民族解放軍(KNLA)第5旅団のボジョーへー司令官(当時47歳)を取材した。
ゲリラの多くは家族や親戚が国軍に殺されたり、村を焼かれたりした怒りから、自ら志願して解放軍に加わった。
民政移管を受け、半世紀以上続いた戦闘の停戦協定を結んだものの、ボジョーへー司令官は警戒を緩めなかった。「国軍は前線の境界線から部隊を撤収させようともしない。ならば停戦も和平交渉も意味がない」。彼は厳しい顔つきで言った。
◆苦境のミャンマー市民に関心を
今回、軍部がクーデターを遂行したのは、スーチー氏率いる国民民主連盟が昨秋の選挙で大勝したことが背景にある。弾圧が日増しに強まるなか、今年4月、反軍政勢力は、国民統一政府(NUG)の樹立を宣言した。ミンコーナイン氏もこれを支持し、身を隠した先からネットを通して国民に支持を呼びかけた。
NUGはミャンマーの正統な政府になることを目指し、住民を弾圧から守るため、「国民防衛隊(PDF)」を創設するという。カレン民族解放軍などもこれを支援する予定だ。国際社会も力なく、大規模な内戦の懸念さえ広がる中、人びとが、そこまで追い詰められていることに胸が痛む。
イラクの宗派抗争やシリア内戦で、いくつもの悲しみの現場を取材してきた私は、ミャンマーの行く末を案じずにはいられない。シリア内戦が始まった当初、住民犠牲を大きく報じたメディアも、時間がたつにつれ、関心は薄れていった。
10年前も今も、人の命の重さは同じのはずなのに、シリアでの殺戮が「あたりまえの日常」になってしまった。ミャンマーの人びとが直面し続ける苦悩を「あたりまえの日常」にしてはならない。
(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2021年7月20日付記事に加筆したものです)
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