コロナを口実にした統制強化で民生悪化が著しい。畑の脇を背嚢を背負って歩く女性。2021年7月に平安北道を中国側から撮影。(アジアプレス)

◆急に痩せたのは人民のために日々苦労が多いからだと?

今年12月17日で金正日氏が死亡して10年、つまり、金正恩時代は満10年ということになる。1984年1月生まれとされる正恩氏は、27歳で権力を世襲した。当初、北朝鮮社会には侮りの空気が充満していた。「若造に何ができるのか」「あれはまだガキだ」と。

その後の10年の間に、正恩氏は独裁統治の経験を積みながら、その体躯を膨らませていった。みるみる痩せたのは、経済混乱が深まった今春からだ。

韓国から帰国後の10月初旬、北部地域に住む取材協力者たちに「激痩せ」について思うところを尋ねてみると、ちょうど「金正恩元帥様は苦労のせいでお痩せになった」という宣伝が始まったばかりだという。30代の女性の説明を紹介しよう。なお彼女は正恩氏のことを呼び捨てにした。

「10月に入り、毎土曜日に地域や職場で行われる学習で、正恩の偉大性教養事業を始めました。彼は絶世の偉人で、強大国どもを片手であしらってきたというような内容です。急に痩せたのは人民のために日々苦労が多いからだと、『金正恩元帥様の健康を祈り、忠誠を誓う手紙を送る運動』が始まりました。

団体や個人が『元帥様の安寧こそが私たちの幸せだ』という手紙を書いて朗読するイベントです。手紙が実際に正恩の元に届くのかどうか知りませんが、(体重減少に)誰も関心はないでしょう。

そもそも生活苦で痩せたわけではなく、ちゃんと食べているはずなのに、なんで心配なんてしなければならないのか。私たちは、どうやったら食べていけるのか、毎日が心配で不安。商売でわずかでも金を稼ぐごとで頭がいっぱいなんです」

他の協力者の受けとめもほぼ同様。日々の暮らしに精いっぱいで、正恩氏の健康問題など歯牙にもかけない様子だった。

「激痩せ」が「国策ダイエット」によるものか不明だが、正恩氏の体重が気になるのは、北朝鮮の庶民より韓国人と日本人であることだけは間違いなさそうだ。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

毎日新聞大阪版10月19日に掲載された記事に加筆修正しました。

★新着記事