戦後最長の在任期間を記録した安倍晋三元総理大臣。高支持率を維持していた安倍政権の支持率が急落する一因となったのが、黒川弘務東京高検検事長の定年延長の一件だ。長年積み上げてきた法解釈を変更するには相応の理由がいるが、その決定過程に関する文書が法務省に存在しないとされたことが12日、分かった。(フリージャーナリスト・鈴木祐太)
明らかになったのは、神戸学院大学法学部の上脇博之教授が法務省に情報公開し、不開示決定が下されたためだ。
上脇教授は、黒川検事長の定年延長問題の過程を知るために、定年延長が閣議決定された直後に、法務省に対して情報公開を請求した。法務省は「勤務延長に関する規定(国公法第81 条の3)の検察官への適用について」という公文書などを上脇教授に公開した。しかし、この文書は、作成者、日付が書かれておらず、閣議決定前に作成されたかどうか疑わしいものだった。そのため、上脇教授は要求した公文書ではないとして、この情報開示決定の取り消し無効を求めて202年6月、大阪地検に提訴した。
◆文書作成していないという法務省
上脇教授は、さらに昨年9月、閣議決定に至る過程を示した文書、つまり、協議した記録や決裁文書を求めて情報公開を請求した。その結果、法務大臣は「開示請求に係る行政文書は作成又は取得しておらず保有していない」として、あらためて不開示としたので、今回、情報開示を求めて二つ目の提訴を行った。
仮に、法務省が下した不開示決定が事実であったならば、検事長の異例とも言える定年延長という案件に対して公文書を作成していなかったことになる。これほどの重大な案件に対して「意思形成過程」を公文書として残していないことは公文書管理法に違反していることになる。
黒川氏は東京高検検事長を63歳の誕生日を迎える2019年2月8日に定年退職をする予定だったが、1月29日に半年間定年が延長されることが閣議で決定された。これは当時の検事総長が8月に定年になることを見越し、その後任として黒川検事長を検事総長にするための官邸主導人事だと当時言われていた。そのために、長年積み上げてきた法解釈を変えたわけだ。しかし、黒川氏の不祥事や世論の厳しい声を受けて、黒川氏は5月辞職した。
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