シリア北西部イドリブでコロナ重症患者の治療にあたる医療チーム。(写真:病院提供)

◆新型コロナ感染拡大のシリア・イドリブ

シリア北西部イドリブは反体制派が統治する。武装組織各派がアサド政権の政府軍と対峙し、緊張が続く。住民は、空爆の恐怖や生活困窮に苦しんできた。そこに新型コロナウイルス感染拡大が追い打ちをかけている。地元記者を通して、現地の状況を取材した。
取材・構成:玉本英子/アジアプレス、協力:ムハンマド・アル・アスマール

病院に搬送される新型コロナ重症患者。後方に戦闘で破壊された建物が見える。住民は内戦とコロナの重圧に直面している。(撮影:10月19日、シリア、イドリブ・保健局撮影)

◆デルタ株感染者急増で医療逼迫

ムハンマド・ハイル・アルジャド医師(40)は、集中治療室で何日も働きづめだ。

「8月ごろからデルタ株で感染者が急増した。人工呼吸器、酸素ボンベが足らず、人手もない。医療は逼迫している」

イドリブは、周辺地域での戦闘から逃れた避難民の増加で、人口400万人を超える。だが、医療施設は脆弱(ぜいじゃく)で、コロナ重症者が入院できるのはたった6病院という。その一つ、北部にあるシャム病院で最前線に立ってきたのが、ムハンマド医師だ。

「先月も友人の医師が亡くなった。戦闘の負傷者を何人も救った彼が、コロナで命を落とすなんて……」。

医療従事者はワクチンの優先接種を受けたものの、これまでに30人の医療関係者が死亡している。

新型コロナで10月に亡くなったアッバス医師。内戦下のシリアで医療活動を続け、多くの命を救ってきた。(写真:家族提供)

◆姿が見えないウイルスの恐怖

アサド政権は、反体制エリアとの関係を閉ざしているため、シャム病院は国外の人道機関から医療支援を受けてきた。物資はイドリブに隣接するトルコから入っていたが、国境が一時閉鎖され、医療機器や医薬品が不足し始めた。従来なら使い捨てだった防護服も、洗って再利用する。

看護師のイマード・アブザイドさん(37)は「ウイルスの姿は見えない。空爆の負傷者の手当てとは別の過酷さ」と話す。

シリアの11月中旬までの感染者は4万5000人、死者は2650人。これに反体制派エリアの数字は含まれていない。イドリブの保健当局の報告では、同地域内だけでも感染者は約9万人、死者1950人超で、実数はさらに多いとみられる。

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