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◆イドリブでもロックダウン
シリア政府軍やロシア軍は、反体制派地域の病院までも空爆する。イドリブ南部にあったシャム病院は爆撃で閉鎖され、昨年、北部に移転してきた。周辺には避難民キャンプが点在する。キャンプの不衛生な環境と狭いテントでの生活で、家族間の感染が広がっている。最も力のない住民が戦争の犠牲となり、ウイルスによっても命を奪われている。
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9月中旬、イドリブでは2週間にわたってロックダウンが実施された。学校や職場、商店が一時閉鎖となったが、守らなかった人も少なくなかった。
「家に閉じこもれば感染しないだろう。でも外で働かなければ生きていけない。まず家族を食べさせなければ」。
露天商の男性はそう話した。
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国際機関を通じて、イドリブにもワクチンが届けられているが十分ではなく、2回目接種を終えた人は全体の1%ほどだ。日本円換算で約350円で売られているマスク箱も、一日の収入がそれを下回る困窮家庭が多く、着用率は低い。
◆戦争とコロナ禍の二つの重圧に苦しむ住民
戦闘で負傷した市民の救護活動に携わってきた市民組織、民間防衛隊(ホワイトヘルメット)は現在、コロナ重症者の病院搬送や遺体の埋葬も任務の一部となった。
「戦争とコロナ禍の二つの重圧にみんな疲弊しています。死にたくない、助けてと、私を見つめながら亡くなった患者さんのことが頭から離れません。少しでも多く命を救いたい」。
ムハンマド医師は苦渋の言葉をにじませた。
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(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2021年11月23日付記事に加筆したものです)
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