マスクを付けて有刺鉄線の内側で警備する若い国境警備隊員(左)と一般兵士。痩せている。2021年7月に新義州市を中国側から撮影

◆当局は「コロナの恐怖」を過剰に強調

北朝鮮当局は、現在まで一人の感染者も発生していない「ゼロコロナ」を維持していると宣伝しているが、一方で国民に対しては、外国で新しい種類の変異種・オミクロン株が感染爆発で死者が多数出ていることを報じ、引き続き「防疫最優先」で警戒するよう呼びかけている。

北部の咸鏡北道(ハムギョンプクド)に住む取材協力者は、「熱が出たり風邪の症状が現れたりしたら、必ず人民班(末端の行政機関、町内会)長に届け出なくてはならない。それが『防疫指揮部』に伝えられる体系が維持されている」と語る。

◆怖いのはコロナより窮乏

ところが、住民たち危機意識は薄い。

北朝鮮で新型コロナウイルスに対する厳重かつ過剰な防疫対策が始まって2年。経済悪化が深刻化して住民たちの疲弊が顕著になっている。貧窮のため、目に見えない悪性伝染病よりも、当局の過剰な統制による生活悪化の方が暮しと命を脅かすものと映っている。そのため、長期化するコロナ統制にはうんざりだという空気が蔓延しているのだ。

両江道(リャンガンド)に住む取材協力者は2月21日、次のように伝えてきている。

「人々の間で、『コロナの勢いは弱まって季節風邪のようなものだ』」とか、『朝鮮人はニンニクをたくさん食べるので、コロナに罹らない』と考える人が増えている」

広がっている根拠のないこの楽観論の出所は、外部の情報だという。

金正恩政権は、国境封鎖して自国民の帰国と外国人の入国をほぼ一切認めていない。中国との密輸もほぼ根絶された。にもかかわらず、オミクロン株は重症化しにくい、死亡が少ないという情報が入り、それが拡散しているようだ。

伝えているのは、主に韓国に脱北した人たちだ。中国の携帯電話を使って北朝鮮に残る家族や知人と連絡を取り合うが、その際に、最新のコロナ情報が伝わり、それが北朝鮮国内でも口コミで拡散していると見られる。

◆警戒の緩み怖れた当局は「コロナの恐怖」伝え続ける

コロナへの警戒心の緩みを嫌う金正恩政権は、国営メディアを通じて、ほぼ毎日、国ごとの感染者数、死亡者数を挙げて、過剰なほどに「コロナの恐怖」伝え続けている。例えば2月22日の朝鮮中央通信は、「アジアで新型コロナウイルス感染者と死亡者が増加」という記事を配信。「日本で 455万 142人に感染し、2万2033人が死亡した」と、累計であることに言及せずに伝えている。

労働党は今年1月に、「非常防疫事業において大衆的な防疫雰囲気と全社会的な自覚的一致性を継続維持することについて」という文書を幹部対象に配布した。緩みを警戒してのことだ。(カン・ジウォン

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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