降雪の中で三池淵の工事現場を視察した金正恩氏。2018年11月労働新聞より引用。

◆過剰なコロナ対策で現金収入激減

北朝鮮北部の冬は寒い。特に標高の高い豆満江、鴨緑江の上流地区は、厳寒期は零下30度を下回る日が珍しくない。

「今年はえらく寒い。朝鮮には『かまどが同居する』という言葉があるんです。焚きものを買う金の余裕がないため、冬場だけ他人と同居する家もあるし、食べ物を買うのを我慢してガリガリに痩せこける人もいる」

鴨緑江上流の両江道(リャンガンド)の中心都市・恵山(ヘサン)に住む取材協力者がこのように伝えてきた。

庶民にとって冬の大きな悩みは暖房だ。アパートでも単独住宅でも、大部分は石炭か薪を焚く床暖房(オンドル)を使う。かつては廉価な石炭の国家配給があったが、1990年代にほぼ破綻。住民たちは商人から現金で購入するのが一般的になった。水を加えてこねて練炭を作る。

今、大問題なのはお金がないことだ。この2年間、金正恩政権による過剰な新型コロナウイルス対策で経済不振が深刻化した。一般庶民の多くが商行為の不調や働く機会を失って現金収入が激減した。老人世帯などの脆弱層には飢えや病気で死亡する人まで発生する有り様だ。それに加えて冬季は焚きものの負担がのしかかる。

(参考写真)電力難で水道が止まり村の共同井戸で水を汲んで家路につく女性。2015年1月北朝鮮中部地方で撮影アジアプレス

◆異例の石炭配給を実施

厳冬期に入った1月、当局は労働者に対し工場や企業を通じて暖房用石炭の配給に踏み切った。

「 『党の配慮だ』として、労働者1人当たり石炭500~800キロずつの配給を始めた。値段は、昔定められた国定価格で、労働者の給与から天引きされるけれど、とても安いので歓迎している」
と、協力者は言う。

国営の工場や企業所といえども、炭鉱や石炭会社がタダでくれるわけではない。それで、国が費用を保証する「石炭伝票」を国営企業に発給し、それで石炭会社は供給を認める。石炭会社は「伝票」を銀行や国家機関に渡して後に精算する。随分廃れてしまった昔の「社会主義方式」である。

ただし今回、石炭の運搬は各職場の責任だ。取りに行かなくてはならないので、運送会社のトラックを手配するために、各職場では従業員から運送費を徴収しているという。また、企業が商人たちに石炭を売って運送費を捻出している。

★新着記事