◆金正恩のゴーサイン
あくまでも推測であるが、昨年の前半期にはプロトタイプが出来上がり、9月の試験から性能改善を経て、金正恩のゴーサインが出るまで待機状態にあったのではないか。昨年末の党の会議で「決定書」というお墨付きが出たので実施に踏み切ったのであろう。
マッハ10という飛行速度もさることながら、液体燃料の「アンプル化」により発射準備時間が短縮されて機動性が飛躍的に高まった。
現在の防御手段では迎撃は事実上不可能だとして、韓国野党の大統領候補が「先制打撃しか対応方法がない」と発言したことが好戦的だと物議を醸している。
それはともかく、ここ数年間に北朝鮮が行っているミサイル発射実験を見ると「奇襲」と「変則」というキーワードが浮かび上がる。発射準備時間の短縮、発射の機動力とミサイルの変則飛行能力向上などである。朝鮮労働党が掲げている「抗日パルチザン式」の伝統継承に符合する戦術と言える。
それでは実験を繰り返した極超音速ミサイルなどの新型兵器は、すぐに実戦配備が可能なのだろうか? それは容易ではないと筆者は見る。なぜなら、資金難や電力不足の他に、北朝鮮独特の事情があるのだ。( 続く 2へ )
呉小元(オ・ソウォン=仮名)
60代の男性。元朝鮮労働党傘下機関幹部。日本で生まれ、10代で帰国事業で北朝鮮に渡った。平壌の大学を卒業後、労働党傘下の貿易会社で働いた後、韓国に対する工作活動をしていた。1990年代に韓国に亡命。会社員を経て定年退職。著書に「ハダカの北朝鮮」(新潮社)、コラム「平壌ウォッチ」を東京新聞に連載(2010~2012)、月刊誌「新潮45」、「ファクタ」、情報サイト「フォーサイト」等に多数寄稿。
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