◆「誰が息子を殺したのか?」 裁判もなく逆に監視受ける
その後、検察が調査結果を発表した。「民家に強盗に入ったハビエルさんが、もみ合った末に殴打され死亡した」というものだった。マルガリータさんが息を吸い込み、言葉に怒気を込める。
「拉致し、監禁し、暴力を振るい私の息子を殺した。それなのに、彼らは物語を変えている。警察の嘘は、私たちへのさらなる暴力です」
マルガリータさんは学生らを訪ね歩き、息子に関する証言を集めた。活動する中で繋がった同じ境遇の母親たちの助けで、人権団体を通じて事件を告発した。だが裁判は開かれない。
「誰が私の息子を殺したのか。その指令を出したのは誰か。私は真実が知りたい。そして、息子の汚名を晴らしたい」
そう思いを話す。
「しかし」と、マルガリータさんが言葉を繋ぐ。
「私たちを司法面で支援した人権団体の代表が、今年(2021年)、逮捕されました。理由は明確ではありません。団体も捜索されて事務所が閉鎖されました。私に脅迫状が届いたこともあります。警察は毎日、家の周囲を巡回しています。国内での活動が、とても難しくなっています」
◆息子に「愛してる」と言いたかった。
マルガリータさんは事件後、教会で祈ることで過去と自分に向き合ってきた。最近、支援者の紹介で心療内科でのカウンセリングを受けはじめた。それでも後悔の気持ちが消えることはないという。
「私は息子に『愛している』と言いたかった。私は、最後を迎える息子に食事を作ることも、汚れた服をかえてあげることも、水を飲ませてあげることもできなかった」
夜になると思いが溢れ、眠ることができないという。しかし、希望は捨てない。
「いつか政府が変わり、世の中が新しくなった時、私の息子の裁判が始まると期待しています。私は息子のために闘います。息子は正義のために闘ったのですから」 (続く)
ニカラグアの40年
左翼ゲリラ・サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)を率いたオルテガ氏は1979年、ソモサ一族による独裁政権を倒し革命を成功させ、84年、大統領に初当選。90年の選挙で敗北するが、06年に大統領に復帰すると、14年、大統領の再選禁止規定を撤廃し、17年には夫人を副大統領にした。18年の反政府デモへの武力鎮圧では300人以上が死亡するなど、強権的な独裁政治が批判される。21年の大統領選で勝利し、4期連続5回目の大統領に就任した。
柴田大輔(しばた だいすけ)
フォトジャーナリスト、フリーランスとして活動。 1980年茨城県出身。2006年よりニカラグアなど、ラテンアメリカの取材をはじめる。コロンビアにおける紛争、麻薬、和平プロセスを継続取材。国内では茨城を拠点に、土地と人の関係、障害福祉等をテーマに取材している。