新型コロナウイルス感染が急拡大する中で、大阪の医療衛生が再び深刻な危機に見舞われている。オミクロン株は重症化しにくいと言われながら、その感染力の強さから病床使用率は限界に達し、死者数と重症者率は全国ワースト1。保健所は陽性者情報を管理するための発生届の入力も追い付かない。昨年春の第4波で医療崩壊に陥り、保健所業務もパンクした。多くの犠牲者を出した大阪で、なぜ、教訓は今回も生かされなかったのか。(矢野宏、栗原佳子/新聞うずみ火)
◆日常業務にコロナ対応が加わり、保健所業務がひっ迫
「保健所に100回以上も毎日電話しましたが、つながりませんでした。保健所から連絡があったのは、感染が判明して1週間後のことでした」
大阪市内に住む70代の女性から悲痛な訴えが届いた。
2月に入り40代の長男のコロナ感染が判明した夜、自身も39度近い高熱が出た。翌日、長男が検査を受けた医療機関で調べてもらうと、陽性だった。この女性は糖尿病の基礎疾患もあり、重症化リスクが懸念された。大阪市保健所は65歳以上の年齢や重症者リスクがある人には電話で健康観察を行う「ファーストタッチ」を2日以内に行うとしている。
受話器の向こうの保健師に対し、小言が口をついて出たという。
「あなたに言っても仕方ないけれど、重症化リスクがあるのに、このタイミングなのですか。先生は発生届を出していたはずですよ」
医療機関が陽性を確認すると発症届を保健所に送る。市保健所では多い日で数千もの発生届を受け取り、厚生労働省の管理システム「ハーシス」に入力する。
さらに、患者の地元保健所に連絡して入院・治療方法などを決めるのだが、第6波を迎えて保健所業務がひっ迫し、大阪市では1万人以上の発生届の入力漏れが起こった。発生届が処理されなかった陽性者は保健所から連絡もなく、放置されてしまう。この女性もその一人だった。たまたま医師が基礎疾患などを心配し、承認特例の薬を届けてくれたから助かったという。
保健師は「コロナの24時間電話がある」と教えてくれた。「私は100回以上かけて諦めたのですが、そこからだとかかりますか」と尋ねると、「私たちは一応、伝えなければいけないから言っているだけで、ほとんどの方から『なかなか通じない』とお叱りを受けます」と答えた。女性は「あなたも辛いね」とねぎらい、受話器を置いたという。
保健所の仕事は日常業務にコロナ対応が加わった。医療機関からの届け出を受けて感染者からの聞き取り、入院、宿泊療養、自宅療養を判断。感染者の病院搬送、自宅療養者の健康観察、生活支援に至るまで幅広い業務に忙殺されている。( 続く (2)へ )
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