◆手紙を書き残してビロウスは兵営に向かった
ウクライナ侵攻に対して、アメリカのバイデン大統領は「これは民主主義と専制主義の戦いだ」と主張している。だが私は、まったく違うと思う。問題は民主主義体制か否かではない。大国による侵略を許すか否かである。私たちは、どの大国であれ、小国を侵略することが許されない世界をつくるべきだ。
ブッシュやプーチンのような愚行を繰り返させるな。大国間の軍事対立と恐怖の均衡ではなく、平和的な国際秩序をつくろう――ウクライナの経験を踏まえてビロウスが訴えているのは、そういうことだろう。では具体的に何ができるのか。今はまだ見えない。だが私たちはその方向を模索するしかない。そうでなければ第二、第三のウクライナ侵攻を繰り返すことになる。
ウクライナ侵攻の終結が、別の大国による軍事支配や対立、別の愚行の始まりであっては意味がない。ビロウスは気候危機の解決のためにも国連の強化が必要だと書いている。人類は、軍事対立に血道を上げている場合ではないのだ。
ビロウスはこの「手紙」を書き残して兵営に向かった。彼は最後に、仮にロシアがキエフを占領し、傀儡(かいらい)政権を樹立しても、私たちはそれと闘い続けると宣言し、ロシアの民衆に反戦運動に立ち上がるよう呼びかけている。
プーチンの戦争が一日も早く失敗に終わり、ウクライナに平和と主権が回復することを願う。ウクライナとロシアの人びとが再び平和的な絆で結ばれることを望む。そして、優れた歴史家であるタラス・ビロウスの二通目の「手紙」が、平和を取り戻したキエフから世界に届けられる日を、楽しみに待っていようと思う。
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加藤直樹(かとう・なおき)
著述家。1967年東京都生まれ。出版社勤務を経て現在、編集者、ノンフィクション作家。『九月、東京の路上で~1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)が話題に。近著に『謀叛の児 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)。
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