◆「ウクライナ事態知ってる?」 住民に直接尋ねてみたが
ロシアによるウクライナ侵攻が世界を震撼させ、各国が対応を迫られている中、北朝鮮当局は3月7日時点で、国民向けに写真1枚、映像1秒の報道もしておらず、庶民はもちろん、党や行政機関の幹部に対しても、情勢の説明を一切していないことが分かった。(石丸次郎 /カン・ジウォン)
アジアプレスでは、3月に入って以降、平安北道(ピョンアンプクド)、両江道(リャンガンド)、咸鏡北道(ハムギョンプクド)の取材協力者5人に、ロシアによるウクライナ侵攻と、国際的な緊張の発生を知っているか尋ねたが、全員が知らなかった。
次いで、協力者たちに、党、行政機関の幹部たちがウクライナ事態をどう把握しているのか、直接会って調べることを依頼した。
その結果、7日時点では、多くの幹部がウクライナでの戦争勃発そのものを知らず、幹部に向けた情勢説明も行われていないということだった。
調査に当たった咸鏡北道の都市部に住む協力者(労働党員)は次のように説明した。
「知っているのは幹部の中でも少数だった。それも国家間の戦争ではなく、旧ソ連を構成していた国との間の民族紛争だと思っている人がほとんど。ある貿易機関の幹部は、中国の貿易業者から聞いたのか、『世界的に関心が高いみたいだね』と言っていた」
※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。
◆なぜウクライナ事態に沈黙するのか
世界を揺るがしているプーチンの戦争を、いまだ国民に一切伝えていない理由を考えてみたい。
北朝鮮がもっとも重視する外交の原則は「自主権の尊重」である。大国が武力を背景に独立国を威嚇したり進攻したりするようなことはあってはならないと、常日頃から米国の振る舞いを厳しく非難し、自国民にも覇権主義と闘って自主を守ることの重要性を説いてきた。
ところが、こともあろうに米国への対抗勢力として支持するロシアが、北朝鮮が国是のように掲げてきた「自主権の尊重」を踏みにじって、小国ウクライナを蹂躙したのである。米国非難だけでは、ロシア擁護のつじつまが合わない事態が発生してしまったわけだ。
今後とも金正恩政権のプーチン支持は揺らがないだろうが、戦況はもちろん、中国の立場の推移、ロシア国内の情勢を注視しながら、事態の推移がある程度読めるようになってから、国内向けの説明を始めるのではないだろうか?
北朝鮮は国連総会でロシア支持の姿勢を鮮明にした数少ない国の一つだが、2月28日に外務省代弁人の短い談話を朝鮮中央通信を通じて発表して以降、ウクライナ事態に対して沈黙を続けている。金正恩政権も戸惑っているのだ。
以下は、その外務省代弁人の短い談話の全文。