4月に「朝鮮人民革命軍」創建90年を祝う盛大な軍事パレード(閲兵式)を挙行し、年初からミサイル発射実験を続けている北朝鮮。国際社会の制裁に加え、国境を封鎖するなど極めて過剰な新型コロナウイルス対策を2年以上続けたため、経済は麻痺し人々の暮らしは極度に悪化している。そんな中で金正恩政権が大金を湯水のように使うことを、住民たちはどう見ているのだろうか? 北部地域に住む2人の住民に聞いた。(カン・ジウォン/石丸次郎)
◆情報統制で人民は「制脳」されている
話を聞いた住民はいずれも中国との国境近くに住む。連絡には北朝鮮に搬入してある中国のスマートフォンを使った。Aさんは商業関係の仕事をする40代だ。
――閲兵式は見ましたか?
A 閲兵式は、皆ちゃんとテレビで見るようにと布告があったので、私も見ました。これまでと何か大きな変化はありましたか? 私は別に関心はありません。食べていくことが大変だから。
――映像に映る平壌の人々は健康そうに見えました。地方と平壌で暮しに差があるのでしょうか?
A 平壌は首都なので食糧配給も出ているそうです。中国から新義州(シニジュ)に輸入されて来る物資は、すべて平壌に入っていくといわれています。それでも、平壌も暮らしが厳しい人が多いと聞きました。
※北朝鮮はコロナで中断していた鉄道による中国との貿易を今年1月に2年ぶりに再開した。新義州はその唯一の通商口だ。
――経済制裁も受けている上、コロナが重なって経済が非常に悪くなっているのに、大金を使ってミサイル発射実験や盛大な閲兵式をする理由は何だと思いますか?
A 示威をしているのです。「お前たち敵がどんなに圧迫しようとも、我われは耐えられるし戦えば勝つ。その準備はできている」というわけです。我われはちゃんと生き伸びて健在であることを誇示しようとしているんです。
――あなたはその「示威」についてどう思いますか?
A 今回の閲兵式の行事で、政府は自主国防力をさらに強化するのだとか言っていますが、それをしたところで、外国や国連からコメなどの支援が得られるわけではない。私は外の情勢を知っているから、地方や下々の者には、「示威」が役に立たず意味がないことをわかっています。
――周囲の人の反応はどうですか?
A ここでは真実を何も知らされていないので、(金正恩のことを)「元帥様は偉大だ」とか、「米国や大国と堂々と渡り合う偉人だ」とか、「年齢は若いのに予知力を持っている」なんて言う人もいます。私でも、そんな話ばかりを聞いていると、そうなのかと思ってしまうこともある。
我われの暮らしが辛く苦しいのは米帝国主義者のせいだと、耳にたこができるほど宣伝してきたので、外部の消息を知らずに宣伝情報だけを聞いている人たちは、(金正恩を)褒め称えることになるんです。
――情報統制されているため、人々は政権の言うことを信じているということですか?
A 防御用の核もミサイルもあるので戦争になったら勝つと宣伝していますが、それでは、いったいいつになったら「食べる」問題は解決するのか、親しい人同士でそう不満を口にする人もいます。
――3月に「火星17」という弾道ミサイル発射実験に成功したと、大宣伝していましたね
A あれには疑問の反応が出ていました。ずっと以前に、米国本土まで打撃可能な武力を持ったと宣伝していたではないか、それが今になって成功したということかと。
米国が脅すのなら、それに対して準備を整えなければならないというのは分かります。しかし、今重要なのは、何より人民の生活が良くならなければならない。政府はそれをやろうとするつもりがないということでしょう。期待はしません。